第24話
会社に着いて部署の扉を開け
「おはよう。」と挨拶をすると先に出社していた数人が一斉に俺の方を向いて驚いた顔をしていた。それもそうだろう、今では話題の人になってしまった俺が同じ会社の仕事仲間で出社してきたのだから。すると、その中に居た武田君が俺に近寄って来た。
「おはようございます。課長、もう奥様は大丈夫ですか?」
「あぁ、長く休んで迷惑かけてしまったな。留守の間、ありがとう。」俺は自分の席に行き鞄を置いた。一か月以上休んでしまった机には当時、残しておいた仕事はもう無くなっていた。それはそうか、期限がある仕事なのだから当たり前だな。
暫くすると部長から部屋に来るようにと呼び出された。部長室のドアをノックする。
「失礼します。」一礼して中に入る。
「里中君、もう大丈夫なのかね?」部長からソファに座るよう促された。
「はい。家内も自宅に帰ってきまして、今後は在宅での捜査に切り替わるとの事でした。色々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」と伝えてからソファに座った。
「そうか、大変だったな。車を運転する人は何時どこで自分の身に起こるか分からんから、気をつけんとな。」
「そうですね…」部長の言葉は少なからずユリを庇ってくれたように聞こえた。
「ところで里中君、君の事でちょっと良くない報道を耳にしたんだが…」俺は部長の言いたい事が何なのか、この時は全く分かっていなかった。
「良くない報道とは?」と聞き返した。部長は軽く溜息を付きながら
「君は取引先の受付の女性と親密な関係だったのかね?」その瞬間、血の気が引いた。弁護士が言っていたプライベートとはこの事なのかと実感した。俺が何も答えられずにいると
「それが原因で奥さんが事故を起こしたのか?報道ではその事が大きく放送されているが、本当なのかね?」
「いや、家内は事故の時の事を余り覚えていないと話しておりまして…」俺は全力で釈明した。部長も俺の必死な様子を見て
「そうなのか?」と理解してくれたように見えた。
「はい。」
「まぁ、事故は弁護士の方で解決するんだろうが、問題はそこではないんだよ。」
と会社側の問題は家内の事故では無く、俺が取引先の女性に手を出した事だった。部長が怪訝な顔つきで
「里中君…そういう行動は困るんだよ。まして取引先なのに…。社長の耳にも入ってな、君が休んでいる間に大変な事になっているんだよ。」と今度はあきれ顔になっていた。とうとう玲子との事が会社に知られてしまった。
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