第23話

  ユリが帰宅した事で俺は仕事に復帰しようと思っていた。ユリも帰宅したばかりでまだ不安な様子も見られていたが、何時までも休んでいる訳にはいかない。相手の方への賠償もあるから稼がないと。

 ユリが帰宅して一週間後、俺は仕事に行く為に身支度をし玄関に向かった。後ろからユリが歩いて見送りに来ていた。

「行ってらっしゃい、気を付けて。」と靴ベラを差し出した。この瞬間、俺の中で(前の生活に戻った)と思っていた、玄関を出るまでは。

「行ってきます。」玄関のドアを開けた時、眩しい光に一瞬、目が開けられなかった。手で光を遮り、指の隙間から覗くと数台のカメラに撮られていたのだ。俺は慌てて玄関のドアを閉めた。ユリの姿を撮られてはならないと思った。

「里中さん、奥さんはご在宅ですか?今回の事故をどうお考えですか?」何台ものカメラを向けられ、質問も容赦なく浴びせられた俺はこの人たちを家から離れさせたいと思い、歩きながら記者の質問に答え始めた。

「今回の事故で亡くなられた方には今後、誠意を持って償っていくと話しています。」

「何故、事故を起こしたのか聞いてないんですか?」

「家内はパニックで事故の事をあまり覚えていないと言ってましたので…。」

「それは旦那さんの浮気が原因じゃないんですか?」その言葉に歩いていた足が止まってしまった。

「それはどういう意味ですか?」俺は記者を睨みつけた。そんな俺の顔を見逃さないようにとカメラマンがシャッターを切る。

「そのままの意味ですよ。」と薄ら笑いを浮かべながら言う。その笑い顔に俺の頭の中で何かが弾けた。

「それと事故は関係ないと思いますけど。」と否定する。すかさず記者からは

「では浮気は本当だったんですね?」と再確認する質問がきた事で俺の怒りが頂点に達してしまった。

「あんた、いい加減にしてくれ!」と記者に詰め寄るとカシャカシャカシャとカメラのシャッター音が鳴り響いた。その音に我に返った。今は何を言っても信じてもらえないと思った俺はその場を足早に走り過ぎた。数メートル走ると追いかけて来る記者やカメラマンは居なくなった。久しぶりに外に出て走ったから息が上がってしまった。

「もう少し体力つけないと乗り越えていけないな。」と自分の年齢と運動神経の無さに思い知らされていた。

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