第22話 龍之介の葛藤⑦

 事故から一か月経った頃、外がやたらと騒がしい声がして目が覚めた。カーテンを少し開けて玄関口を見下ろすと、お母さんがタクシーから知らない男の人と降りてきた。記者に囲まれ、カメラマンからは必要以上に写真を撮られている。何人かの記者がお母さんに事故の事を聞いている。マイクを向けられたお母さんは下を向いて何も答えない。隣にいた知らない男の人が

「止めてください。」ってお母さんを守っていた。久しぶりに見るお母さんは上からでも判る位に痩せ細っていた。髪の毛の白髪が伸びていて上から見るとお婆さんのように老けて見えた。

 お母さん辛かったんだろうなぁ、大丈夫かなぁって思った…だけど、今の僕は真っ直ぐにお母さんに向き合う勇気が出なかった。

 カーテンを閉めて机の上の教科書が目に入った。

 お母さんが帰って来たって、僕が学校に行ける訳じゃない。逆に行きにくくなったと何故かそう感じてしまった。そう思ったら胸がモヤモヤしてきた。今の僕は事故とは言っても、故意に起こしていないとは言っても、人を殺してしまった母親と同じ屋根の下にいる。そんな時、

「龍之介、お母さんが帰って来たぞ。」とお父さんの声が階段下から聞こえた。

何故か解らないけど、この言葉に今までお父さんに対しては平常心を保っていた糸がプツンと切れた。

「煩い!お母さんのせいで僕は学校に行けなくなったんだ。お母さんのせいで虐められるんだ。お母さんの顔なんか見たくない!」そう怒鳴っていた。親に怒鳴るなんて初めてだった。興奮しているのか息が上がり、肩で呼吸をしているようにハアハアしていた。これでもう僕は何もかも終わりだ。そう思ったら外の記者やカメラマンがお母さんの事故の詳細を話している声、お父さんが僕を心配している声、この世界の声という声を遮断したかった。そう感じてベッドに上がり布団を頭から被った。

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