第21話 龍之介の葛藤⑥

 僕は毎日毎日、部屋で勉強していた。自分なりにスケジュールを作って受験に備えた。でもふっとした時に学校の事が気になる。その度に携帯を見たいなと気持ちが揺らぐ。でも見たら、また僕の悪口が書かれているんじゃないかと不安にもなる。だから見ないようにしている。

 学校いきたいな、みんなとまた普通に話したいなって思う。あの時は何とも思わなかった学校生活がこんな状況になって初めて楽しかったなって思えた。

僕が学校に行けなくなったのは何故?

僕がみんなから悪口言われるようになったのは誰のせい?こんなに生き苦しい生活になったのは何処から?

「…お母さん?」そこだ!そこからだ!

お母さんが事故を起こさなかったら。お母さんが人を撥ねなければ。

お母さんが人を殺さなかったら。僕がこんな辛い思いをしなくて済んだのに。

僕の心に憎しみみたいな嫌な気持ちが沸々と沸いてきていた。お母さんがもっと慎重に運転していたら、僕は今まで通り、みんなと楽しく学校生活送れてたに違いない。家で一人で寂しく勉強しなくちゃいけなくなったのは全てお母さんのせいだ。

 僕は勉強する気になれずゲームばかりするようになっていった。

「龍之介、ご飯出来たぞ。」お父さんが下から呼ぶ声がした。僕は行かなかった。

お父さんが辛いのも充分分かっている。けれど…お父さんの疲れて窶れていく姿を見るのは嫌だった。今まで料理なんてした事ない人が僕の為に慣れない料理を作っている。初めは凄いなって思っていたけど、段々切なく見えてきた。

 お父さんはお母さんの為に会社も行かず、嫌がらせにも耐えている。僕は知っている。家に嫌がらせのファックスが送られていたり、ポストにも、家の外壁にも落書きされている事を。それでもお父さんは何も言わずに耐えている。そんなお父さんの顔を見ながらご飯を食べるなんて、今の僕は何故か申し訳なくて食べられない。僕はそこまで強くなれない。こんなに毎日我慢するなんて僕にはもう出来ない。僕は限界を超えてしまっていた。


 部屋のドアの外でカチャリとお皿の音がした。その後に階段を下りる音がした。音が聞こえなくなってからドアを開けるとお盆の上にカレーライスとサラダが乗っていた。それを机の上に置いた。ラップを外すとカレーの良い匂いが部屋中に漂った。僕はがむしゃらに頬張った。お腹が空いていたのもあるけど、お父さんが作ったカレーがとっても美味しかった。カレーを食べながら涙が流れた。

 この涙は、お父さんに申し訳ない気持ちなのか、お母さんに対しての憎しみなのか、学校に行けない悔しさなのか。混乱した僕は嗚咽しながらカレーを頬張っていた。

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