第17話 龍之介の葛藤②

 目が覚めた時に僕はソファで寝ていた。そうだ昨日、そのまま眠ってしまったんだと思い出した。起き上がると、お父さんはもう起きていて、朝ごはんにパンを焼いてくれた。パンの焼ける良い匂いがリビングに広がっていた。お母さんはいつもご飯だからパンが好きな僕は朝からパンが食べられる事に少しテンションが上がった。

 お父さんはお母さんの事があるから暫く仕事は休むらしいけど、僕は受験を控えているから学校に行った。

「おはよう。」といつものように教室のドアを開けた。誰からも返答がなく教室の雰囲気はいつもと違っていた。この違和感は何だろうと首を傾げながら机に着いて驚いた。机に(人殺し)と大きく書いてあった。心臓の鼓動が早くなるのが分かった。周りを見渡すとみんなが僕から距離を取っている。しかも昨日まで仲の良かった友達もヒソヒソと話している。

「あいつの母ちゃん、人を撥ねて殺しちゃったらしい。」そう聞こえた。

あれは事故だって…お父さんは言っていたのに何で人殺しって言うんだろう。

この日から僕に対する学校での環境がガラリと変わった。周りは僕を避けるようになり、話してくれる同級生は誰も居なかった。僕は何もしていない。それなのに何でみんな僕を避けるのか分からなかった。悶々とした気持ちで授業を受けていたから、先生の話なんか全然、頭に入らなかった。もう僕は独りぼっちなんだと思いながら休み時間になりトイレに行った。

 バシャっと音がしたと同時に、僕はどしゃ降りの雨に打たれたようにずぶ濡れになっていた。何が起こったのか分からず驚いて立ち尽くしていると数人の同級生が笑っている声が聞こえた。僕は笑い声の方に振り返り

「…何でこんな事…」と同級生に問い掛けた。すると

「人殺しの子どもだから罰を受けろ。」と言いながらまたホースで水を掛けられた。僕は

「止めろ!」と水を手で避けながら大きな声で

「あれは事故なんだ。」と叫んだ。水が止まり同級生の一人が

「事故でも逮捕されたんだろ?って事は犯人じゃん。」その言葉に対して僕は何も言い返せなかった。

「怖い、怖い。俺たちも何されるか分かんないから行こうぜ。」と薄ら笑いをしながら行ってしまった。

 こんな姿じゃ教室に行けない。僕は逃げるように走って走って家まで全力疾走した。リビングのドアを開けるとお父さんが驚いた顔で駆け寄ってきた。僕は歯を食いしばり、握りこぶしに力を入れて負けないように耐えてきた気持ちがお父さんの顔を見た途端、一気に緩んでしまい涙が溢れて止まらなかった。

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