第16話 龍之介の葛藤①

 僕は学校から帰って来ていつものように「ただいま。」と言った。けど、家に誰も居なかった。いつもならお母さんが

「お帰り。」と言っておやつを出してくれるのに。買い物でも行ってるのかと思って、僕は何気なくリビングのテレビを付けて、喉が渇いたので冷蔵庫を開けた時、テレビからお母さんの名前が聞こえた。一瞬「えっ!」ってなったけど同姓同名なのかと思って気にせず、コップに入れた麦茶を一気に飲んだ。

「ぷはーっ」とお父さんがビールを飲んだ時の真似をしてみた。僕も大人になってビールを飲んだら、「これ位の勢いかな」なんて思いながら一人苦笑していた。

 さっきのテレビが言っていた名前が気になってソファに座り、他のチャンネルでもやってるかと回しているとお母さんの名前が字幕で出ている番組に止まった。

 本当に同じ名前だった。漢字も年齢も一緒だ。僕のお母さんなのか?とテレビを見ていると玄関の鍵が開く音が聞こえた。お母さんが帰って来たと僕は喜んだ。やっぱりこのテレビで言っていた名前は同姓同名の人違いなんだって思って玄関に走って行った。

 だけど、そこに居たのはお母さんじゃなくてお父さんだった。僕の心臓がドクドクと早くなった。こんなに早い時間にお父さんが帰って来る事なんて今までなかった。お母さんの事を聞きたいけど、テレビの人がお母さんだったらと「どうしよう」と不安になった。でもやっぱりお母さんが居ないのは事実だから確かめなきゃと

「お父さん…今、お母さんの名前がテレビで流れてるけど…」って言った途端、お父さんの顔が今まで見たこともない程、驚いた顔をしていた。その表情で

本当にお母さんだったんだと確信した時、血の気が引くってこんな感じなのかもって全身が冷えて寒くなったように感じた。

 お父さんは慌ててリビングに行ってテレビを見ていた。見終わってから僕をソファに座らせた。それでお母さんが事故を起こした話を始めた。お父さんは何度も

「これは事故なんだ。故意にやったんじゃないから。」と言っていた。僕は

「お母さんはいつ帰って来るの?」と聞いた。けど…お父さんは分からないって、

今は警察で調べてもらっているからって。それって逮捕って事?お母さんは犯人になっちゃったの?と色々考えていたら何故か手が震えてきた。

 お父さんが僕の背中をゆっくりと擦ってくれた。お父さんの大きな手で擦ってもらったら何だか眠たくなって、僕はそのままリビングのソファで眠ってしまった。

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