第13話

「もしもし…美那、元気か?」

「うん。お父さん…お母さんは?」

「…母さんは今…」と言いかけると

「ニュースでお母さんの名前が出てた。どういう事?」

大学生になり独り暮らしをしているから、今この家の状況が分からないのも無理はない。でもこれだけニュースで話題になり、驚いて慌てて連絡をくれたのだと話し方で分かった。

「ニュースの内容は見たか?」

「見た。本当なの?あれは家のお母さん?」

「あぁ。母さんは今、警察で取り調べを受けてる。」

「何でこんな事になっちゃったの?」美那の声が段々、強くなっていった。

「これは事故なんだ。お母さんの不注意だったかもしれないけど、故意にやった訳じゃない。美那もそれは分かって欲しい。」電話の向こうで無言になってしまった。突然、家族が逮捕されれば誰でも驚き、言葉が無くなるものだと俺自身が体験して実感した事だ。

「美那、お父さんも母さんに会えてないから、何故こうなってしまったのか聞けてないんだ。今は弁護士にお任せしている。詳細が分かったら教えるよ。」

「…そうなんだ、分かった。…お父さん…」

「ん、どうした?何でも言いなさい。」

「…私、大学に行ってても大丈夫?」

「どういう意味だ?」

「だって、亡くなった人がいるんでしょ?お金、掛かるんじゃないかと思って…」

子どもなりに家の事を心配してくれていると思ったら、家族思いの子どもに育ってくれたのはユリのお陰だなぁと感心していた。

「美那、家族の今の状態を考えてくれて、ありがとう。でも大丈夫。ちゃんと保険にも入っているし心配せずに大学行きなさい。母さんだって、それを望んでるはずだよ。」

「ほんとに大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。美那も龍之介もしっかり勉強して、自分の希望する道に進んで欲しい。」

「…分かった。お母さんが帰ってきたら直ぐに連絡してね。」

「あぁ。美那も何かあったら直ぐに連絡してきなさい。」

「うん。お父さんも無理しないでね。」

「ありがとう。」通話を終えた後、美那には今の所、何も起きていないんだと安堵した。しかし龍之介の学校での出来事があるから不安は拭えない。

 俺は、あの時の弁護士が言った(プライベート)って言葉を思い出した。

美那には何事も起こらず、無事に大学生活を送ってほしいと願っていた。だが、これはまだ序章にしかない事をこの時の俺は分かっていなかった。

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