第12話

 龍之介が

「風呂に入ってくる」とリビングを出た。ドアが閉まると同時に電話が鳴った。

「もしもし。」

「里中さんのお宅でしょうか?」

「はい、そうですが…。」

「こちら報道番組の者ですが、里中ユリ容疑者の件でお伺いしたいのですが、今回の事故の事をご家族はどう思ってますか?亡くなられた方のご遺族に何か言う事はありますか?」

それは突然の電話で驚き、俺はどう答えていいか分からず黙ってしまった。

「旦那さんですよね?何か言う事ありませんか?ご遺族には会われたんですか?ユリ容疑者には面会出来ましたか?」と呆然としている俺に矢継ぎ早に質問が投げかけられた。

「申し訳ありませんが弁護士にお願いしてありますので、お答えは控えさせて頂きます。」

「旦那さんは今回の事故は何故、起こってしまったと思っていますか?」

「それは分かりませんが、亡くなられた方々に対しては今後、きちんと謝罪と償いをさせて頂きます。申し訳ありませんが失礼させていただきます。」と言って受話器を置いた。受話器から手を離したが、余りの勢いに圧倒された俺はその場から動けずに立ち尽くしていた。どれ位経っただろうか、風呂から戻ってきた龍之介に

「お父さん、どうしたの?電話、誰だったの?」と聞かれ、我に返った。

「何でもないよ、間違い電話だった。」と咄嗟に嘘をついた。これ以上、龍之介が不安になるような事は話さない方がいいと思った。

「学校は大丈夫だった?」

「あ、あぁ。担任の先生が不在だったからまた後でかけ直すよ。」

「分かった。夕飯まで部屋に居るから出来たら呼んで。」と言って二階に上がって行った。二階の部屋のドアが閉まる音を聞いてから携帯で学校に電話する。

 先生から今回の事故が他の生徒の間で話題になっているので、暫く休んではどうかと提案された。虐めを受けて帰ってきたと話をすると先生方で目撃した人がおらず知らなかったと驚いていた。

 学校でも監視はするが、全ての時間を見守る事は難しいと言われた。それを踏まえた上で、事が落ち着くまでは休みを取られた方が良いとの意見を貰い電話を切った。受験を控えた大事な時期なのにと思いながらも、俺は龍之介がこの状況を乗り越えてくれるのではないかと安易に考えていた。

 とりあえず龍之介に飯を食わせて元気付けようとキッチンに向かった。料理なんて殆どユリに任せていたから勝手が分からなかった。レトルトでもあればいいなと扉を開けようとした時、携帯が鳴った。

 娘の美那からだった。

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