第11話
弁護士が帰った後、暫く何も考えられずソファに身を預け深く座っていた。
リビングのドアが静まり返った部屋の中にカチャリと音を立てて響き、そして開いた。振り返ると龍之介がずぶ濡れで立っていた。その姿に驚き、駆け寄った。
「どうした?今日は晴れてたのに…。」
俺の問いに下を向いた状態で何も答えずに立ち尽くしていた龍之介の目からは涙が溢れていた。俺は脱衣場からタオルを持ってきて頭を拭きながら静かに龍之介に語りかけた。
「辛かったな。頑張って帰って来てくれてありがとう。偉いぞ。父さんしか居ないから好きなだけいっぱい泣きなさい。」と言うと俺に抱き付き、席を切ったように泣きじゃくった。ここまでよく我慢して帰ってきてくれたと思い、俺は抱きしめ返し背中を優しく擦った。暫くすると落ち着いたのか
「ごめんなさい。」と謝ってきた。
「大丈夫か?何があったか父さんに話せるか?」
「…うん。」龍之介をソファに座らせた。
「実は…学校に行ったら、お母さんの事故の事をみんなが知ってて…。」
「そうだったのか。それで何故、水浸しに?」
俺の言葉に下を向いてしまった。
「もしかして…虐め?」少しの沈黙の後に小さく頷き、ゆっくり話始めた。
いつものように教室に入りみんなに挨拶したが、誰からも返事が無かったらしく、それよりも龍之介を見ながらコソコソ話をしている人が教室の所々で居たらしい。それでも龍之介は事の事態がよく解っておらず、いつものように仲間の友達に
「おはよう。」と駆け寄った。だが、誰も挨拶を返してくれる仲間はおらず、それどころか龍之介を避けるように離れて行った。何故、こんな仕打ちに合うのか疑問に思いながら、自分の机に鞄を掛けていると後ろの方で
「あいつの母ちゃん、人殺しだってよ。」と聞こえてきた。その言葉に愕然としたらしい。それでもいつものように授業を受けていたが、誰も寄り付かず独りぼっちでいた。休み時間にトイレに行くと急に後ろからホースで水を掛けられ、
「止めろ!」と言ったが
「人殺しの子どもなんだから罰を受けろ。」と数人の同級生に笑いながら言われた。とても教室に帰れる状態じゃなかったから逃げるように帰ってきたらしい。
その話を聞いた俺は龍之介を抱きしめ
「辛かったな。」と慰めた。
「風邪をひくといけないから風呂に入ってきなさい。」と言うと
「…学校は?」と心配そうな顔で聞いてきた。
「学校には父さんが連絡しておくから、今日はもう家に居なさい。」
「分かった。」と言い風呂に行った。
ユリの事故が龍之介の日常に影響している。こんなに酷い状況になるとは思ってもいなかった。龍之介がこの事態に対して耐えていかれるか不安になった。
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