第10話

 弁護士の岡部が鞄の中から出した茶封筒をテーブルに置いた。

「奥様の今回の事故の書類をお渡ししますので目を通して頂ければと思いまして。」

「分かりました。ところでユリの様子はどうですか?」俺はリビングからお茶をお盆に乗せて運びながら聞いた。

「だいぶ反省しておりまして気分的にもとても落ち込んでおりました。故意にしたことではなく反省もしておりますので早い段階で自宅に戻る事が可能かと思われます。」その言葉を聞いて希望の光が照らされたように感じた。お茶を弁護士の前に置き、茶封筒の中を確認しようとした時、

「ですが…。」と弁護士が言葉を詰まらせながら話始めた。その言葉で照らされた光が一瞬で曇った。

「何でも言って下さい。」俺は早くその先が聞きたいと身を乗り出した。

「では…落ち着いて聞いて下さい。これから起こるであろう話をしますので。」

弁護士の言葉に心臓がザワザワし始めたのが解った。

「ご主人もご覧になったと思いますが、今回の事故がかなりのメディアで取り上げられ報道されています。故意に起こした事故ではなくても二人の尊い命が犠牲になった事は紛れもない事実です。やはり世間は厳しい目を向けると思います。」

「…と言いますと?」

「もう既に色々な方面の記者やカメラマンが里中さんの周りで動き始めています。事故以外のプライベートまで報道されてしまうかもしれません。」

「そんな…。」全身の血がさーっと音を立てて引いていく感じがした。

「申し訳ありませんが、事故以外の報道された件については私の方で止める事は出来ません。ですので、ご家族で乗り越えていくしかありません。」俺は言葉を失った。

弁護士が続けて話す。

「奥様の方は私が全力で対応させて頂きます。旦那様はお子様たちの心配をしてあげた方が良いかと思います。今後のやり取りは電話、もしくはメールにてお伝えします。」

「分かりました。ユリの事、宜しくお願いいたします。」と頭を下げた。弁護士を送り出した俺はソファに座り茶封筒の中を確認しようとしたが、弁護士の言葉が気になっていた。これから起こるであろう出来事が俺の想像を遥かに超えるものになるとは今の時点では理解出来なかった。

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