第9話

 リビングで寝ていた龍之介が目を覚ました。

「おはよう、お父さん。」まだ眠そうに目をこすっている。

「おはよう。今日、学校あるだろ?朝ごはんはパンでいいか?」

「うん、いいよ。シャワー浴びてくる。」

俺はキッチンに行き、戸棚にあった食パンをトースターに入れた。今までキッチンに立ったことが無いから勝手が分からないが、これから学校に行く龍之介が何も食べないよりはとキッチンに行くと丁度、パンが目に入った。パンがあって良かったと料理が出来ない俺はパンという食べ物に感謝していた。冷蔵庫にあったジュースをコップに入れ、マーガリンをテーブルに置き、他に食べるもの無いかと冷蔵庫を開けて見ているとリビングのドアが開いた。

「お父さんは今日どうするの?会社行くの?」シャワーを浴びてさっぱりした龍之介が頭をタオルで拭きながら戻ってきた。

「会社には暫く休暇を貰った。母さんの事もあるけど、亡くなった方への損害とかもあるから色々と弁護士に聞きに行ってくるよ。」

「そうなんだ。」と不安そうな顔つきになってしまった。

「心配しなくて大丈夫。龍之介は今まで通り学校行って勉強しなさい。」

「うん、分かった。」テーブルに着き、パンにマーガリンを塗って食べ始めた。

昨夜よりは落ち着いている龍之介を見て少し安心した。しかし受験を控えているので、今回の事故が影響しなければいいなと不安は残っていた。


龍之介を送り出した俺はもう一度警察に行こうと身支度を始めた。ワイシャツを着てネクタイを選んでいる時

「いつもはユリが天気や気分で毎日選んでくれていたな…。」とユリが居ない現実を実感させられていた。

(ピンポーン)玄関のチャイムが鳴った。

急いで階段を降り、インターフォンを見ると知らない男性が立っていた。

「はい、どちら様ですか?」

「朝早くから失礼いたします。私、今回里中ユリさんの弁護を受け持つ事になりました岡部と申します。旦那様はご在宅でしょうか?」

「はい、今開けます。」俺は慌てて玄関に行き鍵を解除しドアを開けた。そこにはスラリと背の高いスーツを着た男性が立っていた。

「はじめまして。今回、奥様の事故を担当する事になりました、岡部と申します。」と名刺を差し出した。

「わざわざ来て頂きまして、ありがとうございます。中にどうぞ。」と招き入れた。下駄箱に入っているスリッパを出しリビングに通した。

「こちらにどうぞ。」とリビングのソファに座って頂くように案内した。俺はキッチンに行きお茶の用意を始める。

「お構いなく。今日はご挨拶と要件を簡単にお話しするのにお伺いしたので。」と鞄の中からA4サイズの茶封筒を出した。

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