第8話

 家に帰ってきた時はもう日が沈み暗くなった頃だった。

玄関のドアを開け中に入る。

「ただいま…。」靴を脱いで上がろうとした時、中から龍之介が走ってきた。

「お父さん、お母さんは?」心配そうな顔で俺を見つめて聞いてきた。子どもとはいえ、きちんと話をしなければいけないなと思った。

「母さんの事なんだが…。」とその先を話そうとすると

「今、テレビのニュースでお母さんの名前が出てるよ!」その言葉に驚き、慌ててリビングに走りニュースを見ると事故の映像が流れていた。下にはユリの名前と容疑者と書かれていた。俺はテレビの前で身動き取れず、呆然と立ち尽くしていた。

「…お父さん、これって本当にお母さんの事なの?」龍之介が不安そうな顔をしていた。ここで隠しても何れは分かる事と思い、龍之介をソファに座らせた。

「龍之介、落ち着いて聞いて欲しい。」と今日起こってしまった事故の事をゆっくりと話し始めた。龍之介は時折、驚きながらも冷静に聞いてくれた。だが、話が終わる頃に龍之介の手が震えているのに気が付いた。俺はその震える手を握りしめた。

「大丈夫。これは事故なんだ。お母さんは直ぐに帰って来るさ。心配はいらないよ。」と抱きしめ背中を擦った。龍之介に言った言葉だったが、俺自身にも向けて安心しようと思っていたと思う。龍之介は突然起こった家族の悲劇を必死に耐えようとしているかのように目には涙が滲み、唇を嚙みしめていた。


 結局その日は寝付くことが出来ず、ソファで眠ってしまった龍之介と一緒にリビングで一夜を明かした。ユリが帰って来るまでは仕事が手に着かないと思った俺は会社に連絡し暫く残っている有給休暇を使い休むことにした。部長には直接電話をし昨日の事故の内容を全て話した。

「ニュースで見たよ。奥さんはこれからどうなるんだ?」

「自分の方もよく解らないので弁護士にお任せする事になりました。」

「そっか。大変だろうが仕事は皆で手分けするから心配しなくていいぞ。奥さんの方に就いてあげなさい。」

「有り難うございます。申し訳ありませんが宜しくお願いいたします。」仕事人間として今まで頑張ってきた俺が長期に休むなんて考えもしなかった。しかも自分の事ではなく家族の事で仕事に支障が出るなんて…。

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