第7話
処置室から足取りがおぼつかない男性が家族と思われる人達に抱えられながら出てきた。待合室の椅子に雪崩れ込むように座り肩を震わせ泣いていた。その周りに居た家族の方たちも肩を寄せ合い、皆が泣いていた。
「お客様、ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」その言葉に我に返った。
「午前に起きた交差点の事故で怪我をされた方がこちらの病院に搬送されたと思うんですが?」
「ご家族の方ですか?」
「いえ、違うんですけど…。」とその先を説明しようとした時、背後から俺の肩を軽く叩く人がいた。振り返ると処置室から家族に抱えられて出てきた男性が立っていた。
「家の妻と娘に何かご用ですか?」男性の真っ赤になった目には涙が滲んでいた。
「旦那さんですか?」
「…そうですが、どちら様?」
「申し訳ありません。事故を起こしたのは家の家内でして、謝罪とお見舞いをと思いまして…。」と名刺を出そうと背広の内ポケットに手を入れた途端、急に視界が天井を見ていた。同時に息が苦しくなっていた。何が起こったのか分からなかったが、目線を下に移すと旦那さんが俺の胸ぐらを掴んでいた。
「あんた、どの面下げて、ここに来てんだよ!」鬼のような形相で俺を睨み怒鳴りつけた。その圧力と息の苦しさに何も言えなくなった。
「美紀は…美紀と優はちゃんと信号待ちをしていただけなのに、あんたの奥さんに殺されたんだよ!」
死んだ?その言葉に血の気がサーッと音を立てて引いていくような感覚になった。俺は掴まれていた手を離し
「申し訳ありません、申し訳ありません…。」と何度も何度も頭を下げた。
だが旦那さんの怒りは収まることが無かった。
「俺は絶対許さない!」と今にも俺を殴ろうとしていた。
俺は殴られても仕方がないと腹を括っていたが、周りに居た家族の人達が旦那さんを止めていた。
俺たちのやり取りを見つけた病院の関係者が俺を病院の外に連れ出した。
「今日は帰った方がいいです。ご家族は怒りと悲しみで貴方に何をするか分かりません。ましてここは病院です。争いごとはご遠慮願いたい。他の患者さんに迷惑です。今後は直接お会いするのは避けた方がいいと思われます。弁護士さんを通してのやり取りをお勧めします。」そう言って中に入って行った。その後ろ姿を目で追っていくとさっきの旦那さんと家族たちが俺を睨みつけていた。その視線が刺さり生きた心地がしなかった。俺はドアの向こうのご家族に向かって一礼し病院を後にした。
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