第6話
警察署に着いて、今日事故を起こした里中ユリの夫であると告げると担当の警察官が詳細を教えてくれた。右折する時に前方から直進車が来ている事に気付かず、そのまま曲がり正面衝突してしまったとの事だった。ぶつかった弾みでユリの車は歩道に乗り上げ、信号待ちをしていた親子を撥ねてしまった。ユリ自身はエアバックの衝撃で顔にかすり傷程度の怪我を負った。ぶつかってしまった車に乗っていた人は右足が挟まれ骨折していた。それよりも酷かったのが歩道にいた親子の状況だった。三十代の母親と四歳の女の子だった。事故を目撃した人からはかなり飛ばされていたとの話だった。事故直後、二人の意識は殆ど無かったらしい。話を聞きながら親子の命が助かる事を心の底から願っていた。
警察官からはこちらに居ても面会する事は出来ないと言われた。俺は怪我をされた親子が心配になり運ばれた病院に向かった。
病院の救急に行くと医師と看護師が慌ただしく出入りしていた。俺は受付に行き、事故で搬送された方の容態を聞こうとした。
「先ほど、事故があって運ばれた親子の様子を聞きたいのですが…。」
「親族の方ですか?」
「いえ、違うんですけど…。」とその時、処置室の中から男性の泣き声と叫びが聞こえ、俺はその声の大きさに驚き、処置室の方を見た。
「わあー、美紀、美紀、起きてくれよ、行かないでくれ、頼むよー。」
「美紀ちゃん、美紀ちゃん。」女性の声も聞こえた。
俺はまさか、ユリが撥ねてしまった人じゃないだろうかと急に心臓の脈が速くなるのが分かった。意識不明と聞いていたから何時、容態が急変しても不思議ではないとは思っていた。処置室の入り口を見つめたまま中の人が違う人でありますようにと願っていた。だが、その悪い予感が的中するのに時間は掛からなかった。
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