第218話 雑談


「やることがいっぱいね!」

 

 "マーニャ"がレンを見て笑った。

 

「そうみたいです」

 

 レンは、大型モニターに表示された"やること"を眺めた。

 

 誇張無く、いっぱい並んでいる。

 

 いっぱい書いてあるのだが、要約すると……。

 

 

・金星と火星、木星の衛星軌道上に、地球人が居住できる施設を建造する。

 

・金星と火星、木星を地球人向けにテラフォーミングする。

 

・各惑星間を自動航行する連絡船を建造する。

 

・宇宙の果てに観測船を飛ばす。

 

・地球は、タチバナに任せる。

 

・ゾーンダルクは、ナンシー&タルミン次第で決める。

 

 

 こんな内容だった。

 

「宇宙の果て……いります?」

 

 レンは、キララ達を見た。

 

「だって、ズルいじゃん!」

 

 マイマイが口を尖らせる。

 

「ズルいって……」

 

「レン君だけ行っちゃってさぁ~? こっちは、置いてきぼりでさぁ~?」

 

「普通に死んじゃいますよ、あんなところに行ったら……」

 

「だから、まず観測船を送るのよ」

 

 キララが、船の設計案らしきものを投影する。

 

「つぅか……今の技術じゃ、果てまで到達できねぇんだけどな」

 

 ケインが苦笑した。

 

「先生ぇ~、宇宙の外側には何があるのぉ~?」

 

「あら? 答えを言っちゃって良いの?」

 

 等身大の"マーニャ"が首を傾げる。

 

「だって、調べに行く時間が無さそうだしぃ~……転移を繰り返しても、木星まで3日もかかったしぃ~……この銀河系を抜けるだけでも一苦労だしぃ~……」

 

 ぶつぶつ言いながら、マイマイが考え込む。

 

「予想はしているのでしょう? 宇宙は一つでは無いわ」

 

 "マーニャ"が言った。

 

「あっ、やっぱりぃ~? でも、その宇宙と宇宙の間……隙間には何があるのぉ~?」

 

「マイチャイルドが圧壊させられそうになった空間よ。貴方達が宇宙の果てと呼んでいる場所かしら? 宇宙空間はいっぱいあるから、果てというものは存在しないのだけれど……宇宙同士を断絶させている存在しない空間……果てという表現は相応しいのかもしれないわね」

 

「どんな感じだったの?」

 

 キララがレンに訊ねる。

 

「どうもこうも……」

 

 あの時は、思念体として"虫籠"の中でコンヴィクタの相手をやっていた。

 レンの体を護っていたのは"マーニャ"である。

 

「取りあえず、光速を超える移動手段を手に入れないと話にならないわ」

 

 "マーニャ"が指摘をする。

 

「うぅ……光速かぁ~」

 

 マイマイがキララを見た。

 

「生きている間に達成したいわね」

 

「転移装置も基幹部分の理解が追いついてねぇから……俺らの代じゃ、間に合わねぇかもな」

 

 ケインが唸る。

 

「テラフォーミングというのもやるのでしょう?」

 

 "マーニャ"が微笑を浮かべる。

 

「宇宙ステーションなら建造できると思うんですけど、惑星の環境を変えるとなると……もう、どうやればいいのか」

 

 キララが自分の額を手で押さえる。

 

「タルミンの技術は流用できないの?」

 

 "マーニャ"が訊いた。

 

「この高速艦が精一杯かなぁ~……これだって、私達の技術力じゃ、建造できなかったしぃ……」

 

「船体の素材一つをとっても、地球では未知の素材ですから。船の設計や建造も、タルミンが手を貸してくれたから間に合っただけなんです」

 

「なるほど……そうなると、このプランは厳しいわね」

 

 "マーニャ"の視線が大型モニターへ向けられた。

 

「でも、たぶん……やっておかないと、危ないと思うんですよ。避難先は準備しておかないと」

 

「ナンシーとの関係が破断した時ね?」

 

「はい。たぶん、タルミンさんも向こうにつくでしょうし、第九号島を失うことになると、私達……ナインも苦しくなりますけど、巡り巡って地球全体が行き詰まる気がします」

 

「"ナンシー"との話し合いを成功させないといけないわ」

 

 "マーニャ"がレンを振り返った。

 

「僕、交渉は苦手なんですけど」

 

「気合いよ! 魂を燃やすのよ! 情熱で押し切るのよ!」

 

「いや……気合いだけじゃ無理でしょう?」

 

「そうかしら?」

 

「だって……"ナンシー"さんは、色々と規制というか、決まりに縛られているんでしょう?」

 

「だから、お願いをするのよ」

 

「……ただお願いをするんですか?」

 

「そうよ?」

 

「そんなの……」

 

「ただひたすらお願いをすることも交渉なのよ」

 

 "マーニャ"が両手を腰に当てて胸を張った。

 

「はい、先生っ!」

 

 マイマイが挙手をした。

 

「どうぞ?」

 

「第九号島みたいなのを作れませんかぁ?」

 

「私が?」

 

「おおよその構造は調査して理解しました。ただ、あの卵……コアは完全なブラックボックスです」

 

 キララが言う。

 

「ぶらっく? ああ……どうなっているのか分からないということね?」

 

「はい」

 

「私に言わせれば、あの"資源"からして、意味不明なのだけれど……」

 

 腕組みをした"マーニャ"が小首を傾げる。

 

「先生でも分からないんですかぁ~?」

 

「分からないわ。あれは、創造器の産物でしょう。あの世界とセットで生み出された物だと思うわ」

 

「創造の……世界の一部として存在するもの?」

 

 キララが呟いた。

 

「あなた達が言うところの、ゲームのような世界に存在する……ギミック? そういうものよ。何かの技術的な系譜は存在せず、唐突に、ポンッと生み出された代物ね」

 

 対して、"マーニャ"が収集している知識は、様々な文明の産物が混ざっているとはいえ、各文明が築いてきた基礎技術、理論の延長に存在するものだという。

 

「でも、タルミンさんの知識は? あの図書館にあるものは……」

 

「彼はナンシーという管理者が現れる前から存在していたのよ。地球側の文明の残滓を収集していたという点で……」

 

 そう言いかけて、"マーニャ"が口を噤んだ。

 

「先生ぇ~?」

 

 "マーニャ"の視線を追って、マイマイが視線を巡らせる。

 

「何か見えます?」

 

 キララとケインも、作戦会議室の天井へ眼を向けた。

 

「マイチャイルド……」

 

「はい」

 

 レンは、"マーニャ"の近くに寄って上方を見つめた。

 

「"ナンシー"が来るわ」

 

「……ここに?」

 

「お使いを連れているわね」

 

「使徒ですか」

 

 レンは眉をしかめた。

 

「あの小さなお友達は?」

 

 "マーニャ"が振り返った。

 

「ユキが寝かせているはずですが……」

 

「移動しましょう」

 

「アイミッタに?」

 

「"ナンシー"が訊ねる先は、マイチャイルドか、あの小さなお友達よ」

 

「……分かりました」

 

 何故とは聞かず、レンはユキの位置を確認して転移を行った。

 

「レンさん?」

 

 突然の転移に身構えたユキが、ほっと小さな息を吐く。

 

「"ナンシー"さんが来るみたい」

 

「マイチャイルドか、この子に用事があるはずよ」

 

 "マーニャ"が寝息を立てているアイミッタに近づいて額に手を触れる。

 

「アイミッタに?」

 

 ユキが不安そうに"マーニャ"を見た。

 

「大丈夫よ」

 

 アイミッタを見つめたまま"マーニャ"が呟いた。

 

 それを聞いたレンとユキがそっと視線を交わした。

 

 

 

======

いつも通り、レンには何をどうすれば良いのか分からない。

 

アイミッタに何か問題があるらしい?

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