第210話 白光


 宇宙空間が藍色の閃光を受けて明滅する。

 音のしない衝突が繰り返され、微細な破片を散らしていた。

 

 閃光が消えた闇中を白銀の巨人がはしる。

 目の前を同型のように見える白い巨人が先行して移動していた。

 その背を追って、レンが加速する。

 青白い燐光を噴き上げ、瞬時に距離を詰めて追いすがるなり、右手の"シザーズで殴りつける。

 

 寸前で、白い巨人が掻き消えた。

 直後、激しい燐光を撒き散らしながら、白い巨人が殴り飛ばされる。

 瞬間移動をした白い巨人を、瞬間移動をしたレンが捉えている。

 姿勢を乱した白い巨人の胸部を、"シザーズ"が貫いて背へ抜ける。同じく"シザーズ"と化した腕でレンを捉えようとするが……。

 

 難なく弾き飛ばした左の"シザーズ"が白い巨人の喉元を捉えた。

 間髪を入れずに切断する。

 

(次は?)

 

 骸と化した白い巨体を蹴って距離を取り、レンは何も無い空間に視線を巡らせた。

 

(……これか!?)

 

 唐突に、レンを包み込むようにして透明な何かが覆い被さってきた。

 

「ジェノサイド・タービュランス、フルバースト!」

 

 声に出して叫びながら、レンは両腕の"シザーズ"を交差させて顔を庇った。

 

 白銀の機人が全身から破壊の光を放射し、周囲から迫っていたものを消滅させる。

 

(次……)

 

 レンの双眸が、そこにいるはずの何かを探す。

 

『空間異常を感知』

 

 補助脳のメッセージが浮かぶ。

 

(ターゲット!)

 

 レンの思考に応えて、視界いっぱいに[◇]が点った。

 

(オープン・ファイア)

 

 ターゲットマークを狙い撃ちながら、大きく移動して足下を"シザーズ"で薙ぎ払う。

 何も無いところから生え伸びた透明な触手が切り飛ばされて塵に還る。

 

(……次)

 

 迫ってくる尖った何かを"シザーズ"で弾き、右へ行きかけた体を左へ戻す。

 光る帯状の物体が飛来して抜ける。

 

 

 パパッ……

 

 

 小さく閃光か散り、"シザーズ"で切断された光る帯が消滅する。

 

『偽装空間です』

 

 補助脳のメッセージに反応して、レンは回避のための瞬間移動を行った。

 

(連続転移)

 

『了解です』

 

 相手は、空間を裂いてレンの体の内に出現しようとしている。

 不規則な瞬間移動を連続して行うことで回避可能だった。

 

(攻撃パターンは出尽くした?)

 

『不明です』

 

 

 透明な触手のようなもので巻き取る。

 粘膜を拡げて包み込む。

 機人を模した物体となって物理的な戦闘を行う。

 見えない場所から帯状の破壊光を放ってくる。

 レンの体内へ転移をして内から支配を試みる。

 

 

 相手は、単体から複数体へ瞬時に増減しつつ、次々に攻撃を繰り出してくる。

 だが……。

 

(息苦しさが……退いた?)

 

 空間に満ちていた怒りの渦が薄れてきたようだった。

 これまで、何かドロリと粘度のある液体の中を動いていたような感覚だったが、少し前から本来の速度を取り戻している。

 

(時間は?)

 

『2,1600分を超過しました』

 

(……それ何日?)

 

 レンは苦笑した。

 

『15日を超過しました』

 

 補助脳のメッセージが視界に浮かぶ。

 

(まだかな?)

 

 "迷惑ちゃん"との交戦時間は、15日を超えたらしい。

 逃げ回るから長期戦になるとは聞かされていたが……。

 

(本当に長い)

 

 周囲に連続して発現する黒々とした渦を回避しつつ、レンは視界右下を見た。

 オレンジ色をしたゲージが伸びている。満量まで、あと1メモリくらい残していた。

 

 15分ほどで貯まると聞いていたのだが……。

 

『全方位から飽和攻撃です』

 

(フェザーコートで!)

 

『了解です。フェザーコート展張します』

 

 補助脳のメッセージと共に、フェザーコートが機人の全身を覆う。

 

『転移来ます』

 

(……バードケージ!)

 

 全方位から破壊光を浴びて動きを止めた瞬間を狙って転移をしてくる。

 そこに、"檻"を置いて移動した。

 

 

 パッ……

 

 

 赤い破砕光が明滅し、エネルギーの檻が内から粉砕された。

 

『そこよ!』

 

 "マーニャ"の声を聞いた時には、レンの"レフト・シザーズ"がそれを挟んで捉えていた。

 

 目では見えないそれを切断した感触と共に、頭の芯に刺すような痛みが爆ぜる。

 

『脳の修復は任せて! 今のは、あいつの悲鳴よ!』

 

 "マーニャ"の声が脳内に反響する。

 

(この辺……)

 

 勘で突き出した"ライト・シザーズ"が切断する。

 

(ぐっ……)

 

 再び、激痛が頭部を襲った。

 

『痛みだけよ! すぐ完治させる! 耐えて!』

 

 "マーニャ"の声が籠もって聞こえる。

 

(耳もやられた?)

 

『対象を捕捉しました』

 

 レンの視界に、補助脳のメッセージが踊った。

 

(どこに……)

 

『強調表示します』

 

 補助脳が対象の輪郭を描画する。

 

(……あんなのと戦ってたのか)

 

『ウミウシに酷似した形状をしています』

 

 メッセージと共に、色鮮やかな"ウミウシ"の写真が表示された。

 例によって、体長は20メートル近い。化け物のように大きな"ウミウシ"である。

 

『何かのエネルギーを排出しています』

 

『精神攻撃を行う毒素よ! 浴びても修復できるけれど、しばらく幻痛に襲われるわ!』

 

 補助脳のメッセージに、"マーニャ"が注釈を加える。

 

(毒を着色表示して)

 

『了解です』

 

『マイチャイルド!』

 

(……まだです)

 

 視界右下のゲージは、100%になっていた。

 

(連続転移)

 

『連続転移を行います』

 

 レンの思念に応じて、補助脳がランダム転移を開始する。

 

(ターゲット)

 

『対象が分散します』

 

(全てを狙う)

 

『対象にターゲット……ロックオン』

 

(オープン・ファイア)

 

『全砲斉射』

 

 白銀色の全身から無数のエネルギー光が放射された。

 命中を見届ける間もなく、

 

(バード・ケージ散布!)

 

 レンは、エネルギーの檻をばら撒きながら光を超える速度で移動を始めた。"ウミウシ"とは真逆の方向である。

 

『マイチャイルド?』

 

 2頭身の"マーニャ"が視界に現れる。

 

「こっちです」

 

『えっ?』

 

 2頭身の"マーニャ"が目を見開く。

 直後、レンが振り回した"シザーズ"が何かに触れた。

 同時に、キリキリと抉る痛みが脳内に弾ける。

 

 補助脳が捕捉した"ウミウシ"とは、かなり離れた場所だったが……。

 

「もう、見えます」

 

 両腕の"シザーズ"を中心に眩い白光が膨れ上がった。

 

 何もいないばずの空間から染み出るように大きな頭をした巨人が現れた。

 

(……バーブ)

 

 タルミンが使役していた怪物と似た姿をした巨人めがけ、レンは輝く"ライト・シザーズ"を振り下ろした。

 

 咄嗟に、巨人が両腕を交差させて受け止める。その首を"レフト・シザーズ"が挟んでいた。

 

『タルパキラー・フルバースト』

 

「タルパキラー・フルバースト」

 

『お別れね。コンヴィクタ……本当に迷惑な存在だったわ』

 

 2頭身の"マーニャ"が左手を腰に、右手で正面を指差した。

 わずかな抵抗をものともせず、レンの"レフト・シザーズ"が内刃を閉じる。

 

『アブソリュート・バスター!』

 

「アブソリュート・バスター」

 

 レンの呟きと同時に、宇宙空間に巨大な爆発光が発生した。

 

 

 

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レンは、宇宙の果てで"迷惑ちゃん"との鬼ごっこをしていた!

 

勝負がついたかもしれない!

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