第186話 宣戦
空中、地上、地中、海上、海中……居場所に関係無く、光弾が貫いていった。
大量の兵器と"騎士"が飛び散った。
その2時間後、600発の大型|焼夷爆弾が旧バージニア州の山中めがけて降り注いだ。
大型爆弾の雨は第2波、第3波と続き、第4波からは地中貫通爆弾に変わった。わずか半日の間に、山は形を変えて大きな窪地になり、核戦争があっても機能するように造られていた山中地下の軍事基地は半壊し、機能の大半に障害が発生した。
基地に籠もっていた政府高官や軍の指揮官は消息不明となった。
さらに、追い打ちを掛けるように、アメリカ全土の電子機器が機能不全に陥った。
90分間沈黙し、そして復旧した。
そして、電源が復旧した画面に、"ナイン"の放送が流れた。
『魔王"ルテン"は"ナイン"の敵である。魔王"ルテン"に与する者は"ナイン"の敵である。魔王"ルテン"に味方し、侵略行為を行ったアメリカ合衆国に対して、"ナイン"は宣戦を布告する』
機人化したレンが全身から光を放ちながら、大音声で宣言をした。
映像の背景は、かつてニューヨークと呼ばれていた都市だった。機人化したレンの後ろに、半壊した女神像が映っている。
例のごとく、映像は世界中の画面という画面を乗っ取って放送された。
『"ナイン"は、魔王"ルテン"が与えた"騎士"をすべて破壊する。"ナイン"は、魔王"ルテン"が与えた施設をすべて破壊する。"ナイン"は、魔王"ルテン"が与えた技術をすべて破壊する』
機人化したレンが、全身から光弾を放射した。
空中、海中から迫っていた無数のモンスターが光弾に撃ち抜かれ、千々に分解されて消えてゆく。
『そういう訳なんで、うちに攻め込んで来やがったアメリカさんには退場してもらうぜ』
いきなり映像が切り替わり、大きな机に座っているケインが映った。
『次は、アメリカ全土に焼夷爆弾の雨が降るぞ? 死にたくねぇなら、俺達"ナイン"になめた態度を取らねぇ方がいいと思うがな』
ケインが目顔で合図すると、画面にアラスカや洋上の小群島を含む、アメリカ合衆国全土が表示された。
『"ナイン"は、いつでも、どこにでも爆弾の雨を降らせることができる。さっきはバージニアの山だったが、次はどこがいいんだ? どこでも良いんだぜ? ああ……アメリカさんのミサイルは"ナイン"のコントロール下にある。船も飛行機も車両も……宇宙の衛星も、ぜ~んぶ俺達の玩具だ』
楽しげに笑いながら、ケインが椅子から立ち上がってガラス棚に地下より、ブランデーのボトルとグラスを取り出した。
『さて……電気も水道もガスも、コントロールできねぇよな? まあ、それは大丈夫だ。すべてをマニュアルで制御すればいい。他にも少しばかり不具合が起きているが、アメリカ合衆国全土のコンピューターがストライキを起こしただけだ。全部、マニュアルでやりゃあ解決だ。のんびりやってると石器時代に戻っちまうから頑張れや』
ボトルの中身をグラスに注ぎ、ケインがカメラに向かってグラスを掲げて見せる。
その映像を、例によって、キララとマイマイが観賞して笑い転げている。
「これで、魔王が出てきますか?」
レンは首を傾げていた。
掃討を終えて、"ナイン"の作戦司令室に戻っている。皇居の防衛を行っていたユキとタガミも席に着いていた。
「びびって出てこないかもぉ~?」
笑い涙を拭きつつ、マイマイが言った。
「人類にとっては、"ナイン"の方が魔王よね」
キララが笑う。
「アメさんと同じことをやる国は無くなるだろう。当初の想定通り、人口減を抑えられるんじゃないか?」
タガミが赤く染まりつつある米国の地図を見ながら呟いた。
「すでに、いくつかの州が独立を宣言したようですよ」
タチバナが現地映像を映す。
「……レトロカーの祭典か何かか?」
タガミが顔をしかめた。
「博物館のマニュアル車ならコンピューターが入っていませんから」
「なるほど」
「骨董品の自動車やオートバイだけでなく、馬車も現役復帰したようです」
「馬車で、"鏡"のモンスターと戦うつもりなのか?」
タガミがゆっくりと首を振った。
「電子機器が組み込まれていない兵器の方が少ないからね。戦車や自走砲なんかも……博物館から引っ張ってくるしかないよ」
モーリが笑みを浮かべる。
「"ナイン"による電子攪乱はもう停止しているんだろう?」
「3時間おきに5分間ずつ発生するわ」
キララが答えた。
「……しばらく立ち直れないな」
現地の映像では、旗を手にした男が馬に跨がって何やら叫び、大勢の群衆が拳を突き上げて叫んでいた。
「これじゃ、モデウスの侵攻は防げないわね」
地図を見ながら、キララが言った。
「皇居の方はどうだった?」
レンはユキに訊ねた。
「魔王は現れませんでした」
ユキが小さく首を振る。
「そうか」
今回は、魔王"ルテン"に唆されている国々に対して警告を行うことが目的だ。
ついでに、魔王討伐ができれば上々だっだのだが、魔王"ルテン"は手駒を動かすだけで出てこなかったらしい。
(でも……あれだけの転移を行ったんだ)
完全な隠密行動は不可能だろう。レンの補助脳では探知ができなかったが……。
("マーニャ"さんなら)
レンは補助脳が視界に表示した探知情報に目を向けた。
そろそろ、魔王"ルテン"を仕留めておきたい。
"ゼインダ"でも良い。
「"騎士"は、ゴブリンブレイカーと同程度です」
不意に、ユキが言った。
「ゴブリンブレイカー?」
訊き返したレンの視界に、以前、敵の船内で斃した赤茶色のゴブリンが表示された。
「ああ……こいつか」
「かなり丈夫でしたが、膝関節が横からの衝撃に弱いようです」
「ユキ、ハンマーで粉砕してたよね?」
「特異装甲を着用していました。素手では時間がかかったと思います」
「それは、まあ……そうだろうね」
レンは視界に"騎士"を表示した。
以前、"マーニャ"が鹵獲し、すでに構造は詳細に調べてある。キララ曰く、ちょっとデキの良いパワードスーツだ。
「あれを破壊しても、脳の一部を失うだけだからな。死人は驚くほど少ないと思うぜ」
ケインが部屋に戻ってきた。
「お疲れ様です」
「ははは……もう、毎度のことだからな」
ケインがレンの差し出した水を口に含みつつ、マイマイ達を睨む。
「ケイン、格好いい! 最高の酒の肴だったよぉ~」
マイマイが満面の笑顔でガッツポーズを作る。
「ちぇっ……毎度毎度、つまらねぇ役をさせやがって」
「もう、全世界で指名手配されたんじゃない?」
キララが冷えたビールジョッキを差し出した。
「顔が売れたのは間違いねぇな」
「出歩いたら、さっくり刺されるよぉ~」
「撃たれるの間違いじゃねぇか?」
ケインが苦笑する。
「予想では、次は同盟国でしたね?」
タチバナがキララとケインを見る。
「おう。日本と同じように、同盟国にちょっかいを出してくると思うぜ」
美味しそうにビールを飲み干してから、ケインが一息吐いた。
「う~ん、でも、どこまでいっても、魔王に勝ち目なんてないよねぇ~?」
「そうね。人口を減少させる……文明を衰退させるという点では、魔王側にメリットがあるけど……それだけよね?」
キララがタガミを見た。
「そうだな。"ナイン"は必要な人口を保護する用意が整った。文明の衰退は防げないが……魔王の狙いがよく分からないな」
タガミが腕組みをする。
「ただ遊びたいだけ……にしても、負け確定のゲームなんて面白くないよね。何かあるのかな?」
モーリも考え込んだ。
「"アイミス" どうでした?」
洋上で乗り捨てた"アイミス"は無事回収され、専用の格納施設に運ばれた。
「かなり、むくれているな。ハッチすら開けてくれねぇ」
ケインが苦笑する。
「困ったな。あの時は、仕方が無かったんだけど……」
「マノントリが怒ったのですか?」
ユキがレンを見て小首を傾げた。
「まあ、そういうことらしい。どうやって宥めようかな」
「レンさんが乗って飛行させてあげたらどうですか?」
「かなり濃い魔素が無いと駄目なんだ」
魔素が濃いからと、ゴキブリが這っている地下に潜るわけにはいかない。
「
ユキの提案に、レンは大きく目を見開いた。
「……ああ、それ良いかも!」
大量に跋扈しているモンスターを間引くことができる。"アイミス"のガス抜きにもなる。地球での戦闘データの収集もできる。
「良い案だ。
ケインがキララを見た。
話を聞いていたキララが、笑顔で親指を立ててみせた。
=====
魔王の走狗となったアメリカ合衆国が悲惨な状況だ!
マノントリ(アイミス)を宥める妙案が浮かんだ!
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