第185話 掃討
静まりかえった狭い密閉空間の中、
ポコッ……ポコッ……ポココッ……
座席後方から液体の中を気泡が移動する音が聞こえている。
レンが被っているヘルメットのバイザーには、航空母艦から離陸する戦闘機群、先行して発射されたミサイル群が表示されていた。
『ケインだ。ドンキー発射後、迎撃ミサイルを撃つぞ』
「問題ありません」
レンは大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出した。
『原子力艦は置物だが、ミサイル巡洋艦18隻、ミサイル駆逐艦59隻を転移させやがった。かなり賑やかになるぜ』
「了解」
『マノントリの機嫌はどうだ?』
「落ち着きました。大丈夫です」
レンは右の
『オッケー……ドンキー打ち上げのカウントダウンを開始する』
ケインの声と共に、バイザーに [ 10 ] と表示された。すぐに、数字が減り始め、[ 5 ] からケインが読み上げた。
『点火っ!』
ケインの声に、キララとマイマイの声が重なった。
わずかな揺れを感じた直後、体が座席に押しつけられる。心地よい締め付けに、レンは口元を綻ばせた。
"アイミス"の最高速はこんなものではない。
(魔素濃度がどのくらい保てるかな?)
魔素が無ければ、"アイミス"の動力炉は稼働できない。そのために、マイマイが魔素を散布したのだ。
『現在の魔素濃度で、1,080秒間 稼働できます』
(十分だ)
レンは
『もうすぐ予定到達地点だが、向こうの迎撃ミサイルに捕捉されちまった』
「……開けて下さい」
『了解だ。ペイロード・フェアリング・オープン』
ケインの合図と同時に、周囲を包んでいた
(さあ……行こう)
マノントリに声を掛けながら、レンは
ロケットを捕捉して迫ってくる迎撃ミサイルが命中する寸前、開いたフェアリングから
『魔導式30ミリ機銃(R)の試射を推奨します』
『魔導式30ミリ機銃(L)の試射を推奨します』
バイザー下部に、火器情報が表示されて点滅した。これは、マノントリからの情報だ。
即座に、トリガーボタンを押し込む。
青白い光弾が進行方向へ向かって一直線に伸びて消える。
(どう?)
『予定到達地点まで到達。弾速、弾道共に問題ありません』
補助脳のメッセージが表示された。
ビィーーー…………
『ロックオン、アラート!』
『ロックオン、アラート!』
『ロックオン、アラート!』
『ロックオン、アラート!』
『ロックオン、アラート!』
『ロックオン、アラート!』
・
・
・
警報音が聞こえ、補助脳の警告メッセージが躍る。
戦闘機からは空対空ミサイル、艦船群からは艦対空ミサイルが発射されたようだ。
しかし、軽く機体を舞わせて急降下をした"アイミス"を見失って、全てのミサイルが一瞬で迷子になる。
"アイミス"があまりに速すぎて、対空システムが位置情報を正確に評価できないのだ。
- 4,982m
『有効射程です』
補助脳のメッセージと重なるように、レンの指がトリガーボタンを押し込んでいる。
尖った"アイミス"の機首の左右から、30ミリ光弾が大量に放たれて飛び去る。
直後、一気に機首を上げて、直上へと跳ね上がる。
ありえない角度で急上昇する"アイミス"の後方を20ミリ機関砲弾が交差し、艦上から放たれたレーザー光線が過ぎる。
青白い光弾を浴びたミサイル巡洋艦が、中央部分で火災を起こして蛇行を開始する。
瞬間、高空へ急上昇したはずの"アイミス"が海面すれすれに出現して、船腹めがけて光弾を浴びせて飛び去った。
爆発を繰り返しながら沈み始めた時には、もう次のミサイル巡洋艦が火だるまになっている。
目視ではもちろん、各種レーダー機器も"アイミス"を追い切れず、対空ミサイルを発射することすらできない。
手を伸ばせば触れそうな距離に出現したかと思えば、次の瞬間には5キロ先から無数の魔導砲弾が飛来して装甲板をずたずたに貫き、青炎が高熱を噴き上げる。
レンは、空に上がった航空機を無視し、洋上の敵艦を執拗に狙って沈めていった。
(かなり、機嫌が良くなったな)
先ほどからマノントリがはしゃいでいる。"アイミス"の速度が増し、
レーザー光線を目視してから回避が間に合うのだ。
ミサイルも、機関砲も意味を成さない。
航空母艦も、ミサイル巡洋艦も、ミサイル駆逐艦も、"アイミス"に狙われた数秒後には、海の藻屑となるべく沈降を開始している。
(残りは……)
レンは、上空で右往左往している戦闘機群に向けて"アイミス"の機首を巡らせた。
すべて撃破する。
何の成果も与えない。
何の可能性も感じさせない。
希望も期待も許さない。
全てを圧倒し、ただ絶望だけを記憶に刻む。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
軽い衝撃と共に、"アイミス"の機首に貫かれた戦闘機が宙に散る。急旋回をして懸命に回避を試みる戦闘機の真下に出現し、あるいは直上に現れた"アイミス"が文字通りの
『"アイミス"のエネルギー障壁は、残り81%です』
「こちら、"アイミス"……転移した全艦船の排除を確認。帰路の設置をお願いします」
レンは魔素濃度を見ながら、ゆっくりと"アイミス"を旋回させた。
集まってきた海洋モンスターが海中で暴れ狂っている。
『キララよ。次の転移が南鳥島近海に来るわ。上陸するつもりね』
「……ユキは?」
『皇居周辺の"騎士"を掃討している最中よ。あちらにも追加があったみたい』
「"アイミス"の回収をお願いします」
『潜行回収艇を向かわせるわ』
「脱出用の転移装置を使用します。座標を南鳥島、第2格納庫に設定して下さい」
『了解よ』
(……ごめん)
レンは、会話を聞いていただろうマノントリに謝罪しつつ、南鳥島方向に機首を向けると推力レバーを目一杯押し込んだ。
一瞬の急加速の後、魔素域を抜けたために動力炉が停止し、滑空状態となって海面へ落ちてゆく。
(魔素濃度の調整、魔素域での魔力動力炉の作動、魔導機関砲の威力確認……大きな問題は無かった)
実地で行いたかった試験は、すべて行った。
結果は良好だ。
(南鳥島近海か……揚陸部隊かな?)
"騎士"を満載した揚陸艇でも出現するのだろうか。
ひたすら数で押してくるようだが、その先の展望はどのように描いているのだろう?
『着水します』
(位置を連絡)
『座標を連絡しました』
("アイミス"は……残った魔力でエネルギー障壁を維持)
『現状の障壁を21分間維持できます』
補助脳のメッセージが表示された時、軽い衝撃があり、"アイミス"が海面に着水した。
(また、後で)
レンは緊急脱出用のレバーを引いた。
脱出用の転移装置は、非常用のタンクにある魔力で作動する。距離は少し離れていたが……。
「こちら、レン。第2格納庫に転移しました」
レンは、工作機械が並んだ建屋の中を見回し、周囲の確認をしながら出口へ向かった。
『キララよ。結構な数の"騎士"が直接島内に転移を試みたようだけど、弾かれて海中に落ちたわ。海上に現れたのは……空母6、巡洋艦7、駆逐艦38、強襲揚陸艦10、輸送揚陸艦9』
レンの視界に、キララの報告通りの艦船が表示されてゆく。
「海中にも潜水部隊が居るようです」
『それも"騎士"なの?』
「"騎士"ではなく、戦闘スーツを着用しているようです」
武器は、大口径の機関砲と無反動砲のようだ。潜水艇で運んでいるのは爆弾だろうか。
("魔王"に操られているんだろうけど……"魔王"がいなくてもやってきそうだよな)
転移装置を開発することはできなかっただろうが……。
「島の地下セルはもう撃ち尽くしました?」
『マイちゃんが、とっくに撃っちゃったわ。地下三層までは空っぽよ。四層以下のミサイル・セルは隔壁で隔離するわ』
「たぶん、揚陸部隊も追加で来ますよね」
『そうなんじゃない? さすがに、空母は残り少ないと思うけどね』
「上陸させるだけさせてから、ナパームを使用して下さい」
『"騎士"に熱が効くかしら?』
「仮に耐えても、持って来た武器の方が破損します」
『なるほどね』
「まあ……先に砲撃とミサイル攻撃かな?」
『レン君はどうするの?』
「タイミングを見て、機人化します」
『空母狙い?』
「全部を同時に狙います」
機人化したレンなら、集まって来る敵全てを同時に狙い撃てる。優先順位の設定など必要無かった。
『ああ……そうね。なんか、相手に同情するわ』
キララが苦笑したようだった。
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いつの間にか、"アイミス"を地球に持ち込んでいた!
乗り捨てられた"アイミス"がむくれそうだ!
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