第180話 勧告
『日本政府は"ナイン"を国家として承認せず、未だに通商条約すら締結できていない。24時間以内に"ナイン"の国家承認、通商条約の締結が行われなかった場合、"ナイン"は日本国内での救援活動を停止し、日本国内に設置した"ナイン"所有の施設全てを撤去する』
日本政府並びに、日本国内の画面と言う画面に"ナイン"からの通告文が5分間に渡って表示され続けた。
やがて通達分が消えた後 [救援終了まで、あと 1,440 分] という文字が画面右上に表示され、カウントダウンを開始した。
通告文は、1時間毎に再表示された。
「官邸に来て説明しろとか言ってやがるぜ」
ケインが笑いながら猪口を呷った。
「アメリカさんはぁ~?」
「連絡を取り合っているみたいだけど、どういうわけか通信が途切れがちなのよね。時々、変な童謡とか混ざるし……」
キララが笑う。
「レン君、ヤル気かなぁ?」
マイマイが、網の上で膨らみ始めた餅を端へ寄せた。
「線引きはしているでしょうけど……ぎりぎりまで待つんじゃない?」
「だろうな。ヤル気なら、もっと前に切り捨ててるだろう」
「そっかぁ……そうだよねぇ」
「それより、アメリカさんが騒がしくなってるわ。航空部隊をアラスカ基地へ移動させてるみたい」
ビールジョッキを片手に、キララがモニターを見つめる。
「弾道ミサイルはぁ~?」
「まだ発射指令が下りていないわね」
「爆撃機でも飛ばすつもりか? 空のモンスターを排除できるってことか」
ケインが首を捻る。
「"ナイン"に対する攻撃司令が出たら教えてねぇ~」
「了解よ」
「在庫一掃できるかもぉ」
「……衛星写真だけど、例の"騎士"がぞろぞろ歩いてるわ。廉価版の特異スーツはやめて、"騎士"を選んだのね」
「部隊によって使い分けているのかもな」
「どこを主戦場にするつもりなのかしら?」
「レン君に教えとくぅ~?」
「そうね。タガミさんにも共有しておくわ」
「日本に動きはねぇのか?」
「抗議の電話だけね。自衛隊にも学生にも動きは無いわ……"ナイン"攻撃許可が下りたわ。島ごと撃滅せよとか言ってるわ」
「ほいほぉ~い」
マイマイが端末に表示されたボタンを端から押してゆく。
「弾道ミサイルに攻撃目標の入力が始まったわ」
「はいよぉ~」
嬉しそうな顔で、マイマイが目標座標の"書き換え"を指示した。これにより、アメリカのミサイルがアメリカの軍事基地に降り注ぐことになる。内、50発は現代版の城塞都市とでも言うべき、アメリカ合衆国の新しい首都の防壁を直撃する。
「上手く、迎撃できると良いねぇ~」
「爆撃機……12機が離陸するわ」
「自慢のAIちゃんにコントロールさせてみよぉ~」
「まだ試運転だったろ?」
「着陸とかは難しいけど、海に落とすくらいはできるよぉ~」
「まあ……そうか。無事である必要はねぇからな」
「衛星からの偽情報しか届かないから大変ね。アナログで割り出せる人が乗っているのかしら?」
「アラートが鳴りっぱなしになるし、落ち着かないと思うよぉ~」
「あ……レン君だ」
キララの前に、レンのピクシーが現れた。
『お手紙ですよぉ~』
「ありがとう。返事を書くから待ってて」
『お待ちしますぅ~』
ピンク色の髪をしたピクシーが空中でお辞儀をする。
「……市町村ごとに、"ナイン"の統治を受け入れるかどうかの住民投票を行うんだって」
レンからのメッセージを読みつつ、キララがケインとマイマイに伝えた。
「そりゃあ、また……面倒なことを思い付いたな」
「統治期間は3年。3年後にまた住民投票……って繰り返すみたい」
「村や町が"ナイン"の統治を望んでも、日本政府が許さねぇだろ? さすがに武力行使はしねぇだろうが……」
「なんか、住民をそのまま"ナイン"の準国民として受け入れるみたい」
「ふむ……」
ケインが頷く。
「政府が文句を言っても、住民はそのまま日本で生活を続けてもらうそうよ」
「地方に避難している議員が大騒ぎしそうだな」
「3年更新だと思えば気軽だし……いくつかの市町村が美味しい思いをすれば、二の足踏んでいたところも転がるでしょう。日本は"ナイン"人だらけになるわね」
キララが笑いながらメッセージを作成する。
『お預かりしましたぁ~』
ピクシーが空中でお辞儀をしてから消えていった。
「政府としても、昨日まで国民だった人間を相手に強引なことはできねぇだろう」
「人数が多すぎて強制退去は無理でしょ。食い扶持を"ナイン"が持ってくれるから良いじゃないかなんて言い始める議員がいそうね」
「まあ、駄目だと言ったところで、衣食を補償してくれねぇんだ。国民がおとなしく従うわけがねぇよな」
「住民投票はどうやるのぉ~?」
「救援部隊の配給物資と交換らしいわ。賛成しないと食料品を受け取れないようにするみたい」
「うわわわ、レン君がエグいよぉ~」
マイマイが両手で顔を覆って仰け反った。
「もう、"ナイン"の配給品を味わっちまったからな。いつ来るのか分からねぇ、日本政府の配給なんかにゃ戻れねぇだろ」
呟きながら、ケインが小さく何度も頷く。
「気前よく、全国津々浦々に物資を配ったからねぇ~」
「細かいところは今から詰めるみたい。でも、やると決めたみたいだから……」
「30分以内に決定して、即行動開始だろう」
「……そうなるでしょうね。レン君だし……カオルちゃん、また睡眠時間が減っちゃいそう」
この手の案件で奔走するのは、タチバナである。
「前に、自分は兵士だとか言っていたが……いい感じになってきたな」
ケインが嬉しそうに言った。
「愛の力かしら」
笑みを浮かべつつ、キララが衛星写真を切り替えながら各地の情報を表示していった。
「そういえば、ユキちゃんはぁ~?」
次セルの弾道ミサイルを発射しながらマイマイが訊ねる。
「九号島みたい」
「珍しいねぇ~」
「そう言われると……そうね。アイミッタちゃんと会ったりしているのかしら?」
キララが首を傾げた。
「あのユキさんが? それはねぇだろ。レン君が頑張ってる時に、遊んでるわけがねぇよ」
「まあ、そうよね」
「渡米して暴れてたりしてぇ~?」
「いや、それは……さすがにねぇだろ? レン君除けば、ほぼ最終兵器だぜ? ユキさん投入したら、アメリカ消えて無くなるぞ?」
ケインが真剣な顔で言った。
その時、
「戻りました」
いきなりドアが開いて、ユキが入ってきた。
「お、おう……」
「ユキちゃん、どこ行ってたのぉ~?」
「ハワイとグァムです」
「わぁお、バカンスぅ~?」
「基地施設を破壊するようにと、レンさんから依頼されました」
少し離れているが、どちらの島も近くの海底付近に"鏡"が存在する。
「帰って来たってことは……そういうことよね?」
「任務は完了しました」
答えながら、ユキが視線を巡らせた。
「レン君なら、タガミさんと悪巧みの最中よ」
「日本占領ですね」
「えっ!? ユキちゃん、知ってたの?」
キララが目を剥いた。
「はい」
ユキが小さく頷く。
「2人で水族館に行った時に教えてもらいました」
そう言って、ユキが壁面のモニターへ目を向けた。大型モニターには衛星からの映像が映っている。
「"魔王"は、アメリカに肩入れしたようですね」
「……その根拠は?」
キララがユキの顔を注視した。
「"魔王"の残滓が映っています」
ユキが静止画像を指差した。
「えっ!? ど、どこっ?」
キララが慌てて画面を見るが……。
「しばらく、皆さんに同行します」
ユキが言った。
「……それって、護衛?」
「俺達が狙われるってことか?」
「転移アタックぅ~?」
「意識を米軍に向けてから、暗殺を企てるだろうと……正面からでは"ナイン"に勝てませんから」
ユキが、ちらと天井の照明へ目を向けた。
その双眸に青白い光が点っている。
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アメリカ合衆国が、"ナイン"を狙って動き始めた!
"ナイン"による恫喝メッセージが日本全国に届けられた!
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