第136話 バックドア作戦、不発!?


 高々度の"眼"で"始まりの島"を探し、慎重に島の様子をうかがった後、上陸をして調査を行う。

 "始まりの島"の調査は、想定していた突発トラブルが発生せず、淡々と円滑に行うことができた。

 

 当初は、25の島を対象に調査を行う予定だったのだが、実験用の揚陸船にも大きなトラブルが無く、ミルゼッタとアイミッタの体力面にも問題が無かったため、予定期間を使って可能な限り"始まりの島"を探索することにした。

 

 結果、一ヶ月の間に、41の"始まりの島"を巡ることができた。

 

・少数の渡界者を確認した島:6

・現在は無人だが過去に渡界した人間がいた島:21

・完全に未踏の無人島:14

 

 渡界者が居た場合は即撤収、無人の場合はステーションに入って何処の"鏡"なのかを確認した。

 

「都市名だけじゃなく、地名や山……河か? "鏡"の名称で検索をかけると複数ヒットしやがるな」

 

 ケインが苦笑気味にぼやく。

 

「"天檀"とか、"司馬台"は何となく分かるけど、"ドゥゲ・ゾン"? これって、どこなの? 現地語じゃないわよね?」

 

 キララが資料を指差す。

 

「……ブータンみてぇだな」

 

「"モエナモティ"は~?」

 

「ああ……バングラディッシュだな。下のクトゥブ……ってのは、インドだぜ」

 

「その下の"ネクムガン" "ウェクムガン" "ヘクムガン"は?」

 

「どれも北朝鮮だな。韓国との国境付近にある。確か、"鏡"に核を使ったんじゃなかったか?」

 

 答えながら、ケインがボードメニューを弄っている。

 

「"ペクトゥサン"は、どこ?」

 

「それも北朝鮮だ。中国との国境付近にある山だぜ」

 

「"ハルラサン"って……済州島の?」

 

「らしいな。確か、韓国は"鏡"が2枚並んでいる場所があるとか言ってたぜ」

 

 答えるケインの前に、ピクシーが現れると小さな封筒を差し出した。

 日本に戻っている元異探協のタチバナにピクシーを送って地名を問い合わせているらしい。

 

「あれっ!? 白浦神社跡ってあるけど? 日本にまだ"鏡"があったの?」

 

「それは、ウズモーリエ……サハリンだ」


 他にも聞き覚えのない名称がずらりと並んでいる。

 

「……とりあえずぅ~、番号振って地図に表示……想定される"鏡"の領域と本来の国境線を入れて~……政府が機能している国と所在を残して、他はグレーアウトしちゃおうかぁ~」

 

 ヘルメットを被ったマイマイが、卓上でペン型のマウスらしき物を動かす。

 

「ちゃんと動くわね。でも……やっぱり反応が遅いか」

 

 キララが画面を見ながら腕組みをして唸る。

 ゾーンダルク版のコンピューター"魔素子計算機"の試用をしているのだが、地球のコンピューターに比べ処理速度が遅いらしい。

 

「キラちゃ~ん、もったりして気持ち悪いよぉ~」

 

 マイマイがペン型マウスを放り出し、被っていたヘルメットを脱いだ。

 

「素材から見直さないと駄目っぽい。魔素の流れが一定にならないのよ」

 

「魔素子って微妙に乱れるんだよねぇ~」

 

「地球で使ってる素材じゃ駄目だわ。工夫すれば、5%くらい伸びるけど……そこで頭打ち」

 

「図書館にあった魔導装置の方が上をいってるねぇ~」

 

「あのくらいなら、すぐに追いつくわよ」

 

 キララが不敵に笑う。

 

「今はアナログで十分だ。玩具を片付けてくれ」

 

 ケインが仕切って、卓上にスペースを作ると日本周辺の白地図を拡げた。

 すでに、"鏡"の位置を記入してあった。

 

(思ったより"鏡"の枚数が多い)

 

 今回の調査だけで、日本の周辺に41の"鏡"があり、内35枚は今も"大氾濫"を繰り返していることになる。

 

(調査した島以外にも島はあるけど)

 

 今回は、富士山の"始まりの島"から半径5000キロメートルの円内にある"始まりの島"を対象に調査をした。

 

「位置関係は、地球側とリンクしているわね」

 

 白地図のマークを見て、キララが呟いた。

 

「距離はでたらめだが……おおよその配置は似ているな」

 

 ケインが頷く。

 

「"始まりの島"から"ステーション" "鏡"を抜けて地球側へ抜けて、すぐに"鏡"から入って戻れば、渡界したことになる?」

 

「ならないんだってぇ~」

 

 マイマイがナンシーに訊いたらしい。マイマイが自分の【ステータス】を表示した。

 

「富士の"鏡"から入った渡界者は、所属が"富士山 - Gate"になってるのよぉ~。この状態のまま、他の"鏡"から地球へ戻っても、"富士山 - Gate"のままなんだってぇ~」

 

「……それを解除しないと、別の"鏡"から入っても渡界者としてカウントされない?」

 

「そういうことぉ~」

 

「裏から入って出戻ってもノーカウントってわけか」

 

 ケインが唸る。

 

「なるほど。一度、富士山から戻って、地球にある別の"鏡"から入り直さないと駄目なのね」

 

 キララが小さく頷いて、レンを見た。

 

「そういうことみたいよ?」

 

「……駄目ですか」

 

 レンは小さく息を吐いた。

 手っ取り早く"大氾濫スタンピード"を鎮めて回る手段を発見したつもりだったのだが……。

 

「レン君、イーズに連絡船を運航させる案だが……プリンスって奴が具体化に向けて相談したいと言ってきている」

 

「……プリンス?」

 

 レンは軽く目を見開いた。

 

「会ってみると良い。ちっと面白い奴だったぜ」

 

「そうなんですか?」

 

 これまで、イーズ人でまともな人物に会ったことがない。

 

「見た目は、他のイーズ人と変わらねぇが……商人って感じじゃねぇな」

 

「そうですか」

 

 ケインが勧めるくらいだ。まともな人物なのだろう。

 

「イーズの商館ですか?」

 

「いや、こちらが日時場所を指定すれば向こうがやってくる」

 

「なら……下のロビーで会います」

 

 島主の館に入ってすぐのロビーに、落ち着いた感じのカフェテリアが新設されていた。スタッフは白っぽい亡霊だが……。

 島主の館には、多数の護衛人形ガーディアンが待機している。想定外の何かが起きても速やかに対処できるだろう。

 

「分かった。俺も同席しようか?」

 

「お願いします」

 

 レンは、プリンスの顔を知らない。

 

「他の連中も会いたがってるらしいぜ?」

 

「他の人?」

 

「思念体……蟲王に囚われていた連中だな。ナンシーさんのチェックが終わったんだろう」

 

「ああ……いましたね」

 

 レンの視界に"連中"の名称が表示された。

 

・"女王蜂"

・"プリンス・イーズ"

・"モゼス・イーター"

・"エインテ・クイーン"

・"澱みの王"

 

(なんか……面倒そうな感じ)

 

 内心で溜息を吐きつつ、レンは卓上の白地図に視線を戻した。

 

「イーズの商船団が、先日の償いの品として船を20隻用意してきたぜ? 他にも賠償金と果物や穀物の種子を持って来ていたな」

 

「船? ちゃんと用意したんだ」

 

 キララがケインの手から目録を奪い取る。

 

「……プリンス・イーズと一緒に、他の人もロビーに来てもらいましょうか」

 

「そうするか。ついでに、タルミンさんも呼んどくか?」

 

「はい。こちらはケインさんと……」

 

 レンは、離れた席で紅茶を飲んでいるユキを見た。

 

「ユキと……護衛人形ガーディアン5体かな。どうなるか分からないから、キララさんとマイマイさんは退避してください」

 

 相手が好戦的な態度を取った場合、温和おとなしく笑ってはいられない。戦闘になることを想定しておいた方がいいだろう。

 

「おおぅ~ レン君、やっちゃうのぉ~?」

 

 マイマイが目を輝かせて訊いてくる。

 

「いえ、こちらからは……向こうがまともなら何もしません」 

 

 レンは首を振った。

 

「そういえば、マキシスがエインテ・クイーンのことを気にしていたわ。彼の記憶には無い存在らしいわよ」

 

 賠償品の目録を返しながら、キララが言った。

 

「マキシスさんと同じエインテ人なんですよね」

 

「名称通りならね」

 

「……クイーンというくらいだから女の人でしょうか?」

 

「どうかしら? クイーンという名前かもしれないわよ?」

 

「ああ、そうか」

 

「ちなみに、プリンスは男だったぜ」

 

 ケインが笑みを浮かべる。

 

「女王蜂って……ハチですかね?」

 

「……あだ名じゃなければね」

 

「あだ名……」

 

 レンは"女王蜂"の姿を想像しながら腕の時計を見た。

 

「30分後に、下のロビーで」

 

「分かった。ほらっ、行動開始だ! 船渠へ走れ、走れ!」

 

 ケインが笑いながら、マイマイ達を追い立てる。

 

「警備隊に連絡します」

 

 ユキが壁際の通話装置へ向かう。

 

(イーズがある程度言うことを聞いてくれるなら……島を繋ぐ連絡船は実現するかな)

 

 渡界者が訪れることのない"始まりの島"を活用して何かができるかもしれない。

 

(宿屋とか建てようかな?)

 

 無人島に、ぽつんと建っている旅館を想像して、レンは微かに口元を綻ばせた。

 

 

 

 

 

======

 

"始まりの島"探訪は、ひとまず終了した!

 

"鏡"の多くは、観光名所に設置されているらしい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る