第126話 鐘声と開戦
ゴ~ン……
ゴ~ン……
ゴ~ン……
聞き覚えのある鐘の音が響き始めた。
『島主レンよ。よくぞ、"カイナルガの試練"を成し遂げました』
どこからか、ナンシーの声が語りかけてきた。
『貴方の奮闘を称え、第九号島に大いなる祝福を与えましょう』
静まり返った会場に、張りのあるナンシーの声が響く。
壇上のレンは、まだ名乗っただけである。いきなり、鐘の音が鳴り始めたのだ。
『第九号島の位階は<黄金> となりました』
ナンシーが告げると同時に、声の無い悲鳴のような気配が会場を震撼させた。
(白銀の上は、黄金?)
レンは壇上で小首を傾げた。
とりあえず、このアナウンスが終わるまでは何もできない。待つしかなかった。
***
・第九号島は<黄金> に格上げされる。
・第九号島の<領土> が拡張される。
・第九号島の<領空> が拡張される。
・第九号島の<防空隊> が<防空軍> となる。
・第九号島の創作メニューに<森林> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<湖沼> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<山岳> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<河川> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<軍港> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<学園> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<病院> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<警察> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<消防> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<裁判所> が追加される。
・第九号島の創作メニューに<監獄> が追加される。
・報奨物資として、<資源インゴット> が与えられる。
***
視界を、銀色の文字が埋め尽くした。
(……終わった?)
薄れて消えてゆく文字を見ながら、レンは小さく息を吐いた。
まだ名前を言っただけだが……。
("黄金"というのは、そんなに凄いのかな?)
動揺したイーズ人達が青ざめた顔を見合わせ、緊迫した様子で囁き合っている。
ゴ~ン……
ゴ~ン……
ゴ~ン……
再び、大きな鐘の音が鳴り響いた。
恐慌寸前だったイーズ人達が、体を震わせ背を縮めて動きを止めた。
『島主レンよ。蟲王"ベルセバーブ"の討伐、見事でした。"蟲王"の完全なる消滅を確認しました』
再び、ナンシーの声が聞こえてきた。
『島主レンの奮闘を称えて祝福を与えましょう』
(ナンシーさん……忙しそうだな)
このアナウンスをやる必要があったから、会場に姿を見せなかったのかもしれない。
『第九号島の島主レンに、"神々の祝福"を与えます』
ナンシーの声が響く。
***
・第九号島の島主に、"蟲王"の魔法<支配> を与えます。
・第九号島の島主に、固有の魔法<格納庫> を与えます。
・報奨として、<黄金の宝札> を与えます。
***
銀色の文字が浮かび上がった。
会場の3歳児の集団が凍り付いた。
全員が顔を土気色に変えて動きを止め、恐怖で血走った眼をレンに注ぐ。
(魔法? なんか面白そうだけど……)
2回連続のアナウンスには意表を突かれたが、第九号島の格付けとファゼルナの思念体討伐についての"公式アナウンス"を、遅まきながら行ったということなのだろう。
「えっと……ここの島主、レンです」
レンは、挨拶からやり直すことにした。
その時、
ゴ~ン……
ゴ~ン……
ゴ~ン……
またしても、大きな鐘の音が鳴り響いた。
(まだ何かあった?)
『第九号島の島主レンは、蟲王"ベルセバーブ"を討伐したことにより、蟲王が直接支配していた隷属物を支配下に置くことになります』
(えっ?)
***
・第九号島の島主に、"女王蜂"が隷属します。
・第九号島の島主に、"プリンス・イーズ"が隷属します。
・第九号島の島主に、"モゼス・イーター"が隷属します。
・第九号島の島主に、"エインテ・クイーン"が隷属します。
・第九号島の島主に、"澱みの王"が隷属します。
***
(……何だ、これ?)
レンは、目の前に浮かんだ銀色の文字を凝視した。
言葉の意味は分かる。
ただ、レンに隷属するという"隷属物"が何なのかが不明だった。"女王蜂"だけは、何となく想像がつくのだが……。
(もう……終わったかな?)
レンは、銀色の文字が消えた虚空を見つめたまま、しばらく時間を置くことにした。
何も起こらないまま、時間がゆっくりと過ぎてゆく。
「なんか……色々ありましたね」
レンは、ケイン達を振り返った。
「ちっとばかし、事態の収拾に時間が掛かりそうだぜ」
ケインが苦笑する。
「ナンシー先生、ぶっ込んできたねぇ~」
マイマイも笑っている。
「都度都度やらないから溜まっちゃうのよ」
キララも苦笑していた。
隣の席では、エインテ人のマキシスが深刻な顔で考え込んでいた。
(エインテ・クイーンだっけ? やっぱり、特別な人なのかな?)
ミルゼッタやアイミッタは普段通りだ。
(ユキは……)
いつもの冷徹な表情のままレンの方を見つめている。
「……隷属については、何か知っていますか?」
レンは、タルミンに声を掛けた。
「うむ。プリンス・イーズ以外はよく知っている存在なのである」
タルミンが頷いた。
「プリンスは? イーズ人みたいだけど?」
「知らぬのである。おそらくは、傍系の子孫の
そう言って、タルミンがイーズ人を見回した。
呼吸をしているのかすら怪しい様子で、500名のイーズ人が凍り付いたように動かない。微かな衣擦れの音すら聞こえてこなかった。
「たった今、"白銀"から"黄金"に格上げになった第九号島の島主です」
レンは、500名のイーズ人達を見回しながら挨拶をやり直した。
「初めに……"白銀"の時からイーズ人は島に来ているけど、まだ一度も取り引きが成立していません。理由は、第九号島にとって有用なものをイーズ人が用意できなかったからです」
そう言ってから、レンは最初のイーズの商船長、そして2番目に来たイーズの商船長、そして3番目に来てファゼルナ強襲に呼応して騒動を起こしたイーズの商船について語った。
会場の中央に立体映像が浮かび、当時の様子が音声付きで流される。
「最初のイーズ人は、"黒鉄"だと勘違いをして、第九号島のことを馬鹿にしていたようですね。2番目のイーズ人は色々言っていましたが、結局のところ欲しい物を売ってくれませんでした。3番目は、ファゼルナが送り込んだのかな? 勝手に来て領域内で暴れただけです」
映像を見ながら繰り返し伝える。
「イーズ人との接点はこれだけです。皆さんの持ち込んだ品が劣化した土や水でしかないこと、島を訪れたイーズ人は治安を悪くするだけの害悪でしかなかったこと、島外の勢力を手引きをして第九号島を攻撃した可能性があること、事実として港湾施設に被害を与えたこと……僕は、皆さんのことがまったく信用できません」
補助脳が映像を切り替えた。
映し出されたのは、第九号島に広がる緑豊かな農耕地、様々な果実を実らせた果樹園の様子である。
「第九号島は"祝福"されました。島には、神々に祝福された土や水がいくらでもあります。海の巨魚を獲る力があります。様々な魔導具を生み出す技術があります。"カイナルガ"のタルミンさんが協力してくれることになったから、欲しかった知識や情報が得やすくなりました。皆さんから情報を買う必要がなくなりました」
イーズの商人が用意できる商材には魅力が無い。
「ここまでは、理解してもらえたでしょうか?」
続いて、どこかの見知らぬ島が映し出された。
上空から撮影されたもので、島の全景、ゆっくりと各部を拡大し、さらに寄って島内を移動する乗り物や行き交う人の姿……。
これを見るなり、押し黙っていたイーズ人達から悲鳴に似た声が漏れた。
イーズ人が住み暮らす街の様子だった。
「これは、イーズの島です。他にもイーズ人が暮らす28の島を見つけましたが、今回は一番人口が多い島を選びました」
レンの淡々とした声が会場に響く。
「皆さんの島がどんなに移動をしても、簡単に発見することができます。ここに居る皆さんの顔を覚えましたから、今後は皆さんが世界中のどこへ行っても見つけ出すことができます」
そう言って、レンは言葉を切ると会場をゆっくりと見回した。
「すでに、イーズ人は第九号島に対して攻撃行動をとりました。イーズの商船長が港湾施設に攻撃を行ったんですから……現在、イーズと第九号島は戦争状態にあると考えています。僕は、第九号島島主として、ファゼルナ、デシルーダに加え、イーズとも開戦することを宣言します」
「まっ……待って下さい!」
「お待ちください!」
会場のイーズ人達が声を上げた。
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第九号島に、鐘の音が賑やかに鳴り響いた!
レンは、イーズに対して開戦宣言を行った!
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