第91話 今度は何だ!?
(う~ん……何だこれ?)
レンは顔をしかめて唸った。
"ティック・トック"は、イメージしていたような魔法では無かった。
ナンシーがやってみせたように、手から光の玉が飛び出して目標めがけて飛んでいくものを想像していたのが、実際には、周囲が薄らと暗くなるだけの魔法だった。
補助脳の計測では、レンを中心に半径50メートルの球状の薄闇が出現し、10秒後に消えて元に戻る。
再使用まで、90秒のインターバルが必要になる。
それだけだった。
(いや、さすがに……それだけってことはないだろう)
何か有効な使い方があるはずだった。
『情報深層域の解析を終了しました』
補助脳のメッセージが表示された。
(どうだった?)
レンが試用している間、補助脳がスキルを調べていたのだ。
30分近くも時間が掛かったが……。
『思念体を攻撃するために特化したスキルでした』
(思念体? ゾーンダルクのような?)
『球形のフィールドが発生する10秒間、範囲内に存在する攻撃対象が他空間へ移動することを制限します』
(……つまり?)
『半径50メートルのエネルギーフィールドに捕らえられた思念体は、10秒の間、こちらの世界から移動できません』
(エネルギーの……
『フィールド発生中は、指定した攻撃対象に攻撃が当たるようになります』
(当たる?)
『思念体に直接触れることができるということです』
(それって……銃で撃てば、思念体ゾーンダルクを仕留められるってこと?)
『銃弾だけでなく、刃物や鈍器なども当たります』
視界中央に表示された補助脳のメッセージを前に、レンは大きく目を見開いた。
ようやく、スキルの有用性が理解できたのだ。
『銃弾がどの程度のダメージを与えるのかについては検証が必要ですが、対象の許容値を超えれば消滅が期待できるでしょう』
(とにかく、死ぬまで撃てばいいんだろう?)
レンは、射撃場の内部を見回した。
半径50メートルという短い距離に難はあるが……。
(慣れない剣なんかを振り回すより確実だ)
使いどころに工夫が必要だったが、使用方法のイメージはついた。
(それで……なんで、"ティック・トック"という名前?)
『スキルに改変される前は、時空魔法に分類される魔法だったようです』
(時空魔法?)
レンは首を傾げた。
よく分からないが、そういうジャンルの魔法があるのだろう。スキルとして改変される際、名称をそのまま引き継いだということか。
『魔法使用時の演出として、頭上に時計が出現して時を刻む音を鳴らすようになっています』
(ふうん……演出?)
今ひとつイメージができないまま、レンは頷いた。
レンは、射撃用のターゲットシートから5メートルの位置に立った。
『目標を指定して下さい』
補助脳に促されて、レンは支持台に固定されたターゲットシートに意識を向けた。
『
補助脳のメッセージと共に、ターゲットシートの輪郭が赤色に着色された。
(なるほど)
この対象指定作業は、レンだけで試した時には発生しなかった。
直後、周囲が薄暗くなった。
(……ああ、これが時計か)
レンの頭上に、大きなアナログ時計の文字盤が浮かんでいた。
黄金色の円形の枠に、白銀の文字盤、金の針……。
振り子らしき物は見当たらなかったが、
チッカッ……チッカッ……チッカッ……
規則正しく時を刻む機械音が聞こえてくる。
(ティック・トックじゃなくて、チッカチッカじゃない?)
疑問に思いつつ、レンは腰の9ミリ自動拳銃を抜き撃って、ターゲットシートを穴だらけにした。
ボ~ン……
ボ~ン……
ボ~ン……
どこか懐かしい感じの音が鳴ると同時に、周囲を包んでいた薄闇が晴れた。
10秒経ったらしい。
(これでお終い?)
レンは、自動拳銃の
(どうなってるんだ?)
ターゲットシートは穴だらけになったが、固定していた支持台は無傷だった。
(銃弾が無い)
地面に散らばっているはずの弾芯が見当たらない。
『エネルギーに変換されました』
(……弾が当たる力じゃなくて、弾そのものがエネルギーになる?)
『はい』
(空薬莢は……残るのか)
レンは、地面に散らばった薬莢を拾い上げた。
原理がまったく分からない。
火薬が入っていた薬莢部分は残り、撃ち出された弾芯と被甲は消えてしまった。
(……威力は分からないけど、穴は空いてる)
『撃ち出された銃弾は、対象を破壊するためのエネルギーに変換されました』
視界に、補助脳のメッセージが浮かんだ。
攻撃対象に"当たる"エネルギーに変換されたらしい。
(銃弾がエネルギーに?)
『情報体には、そう記述されています』
(……威力は?)
レンは、ターゲットシートにあいた穴を指で弄ってみた。
通常の射撃と変わらない弾痕のように見える。
『銃口での運動エネルギーをそのまま対象にぶつけているようです』
(この紙を貫通したエネルギーはどこに消えた?)
『エネルギーは、指定した攻撃対象に接触した後、消滅します』
(当たって……消えた?)
なんとも不思議な攻撃手段だった。
(こんなので、ゾーンダルクを斃せる?)
自動拳銃、自動小銃、対物狙撃銃、手榴弾……色々と試したが、攻撃対象として指定した物以外に傷をつけることはなかった。
(そういう……スキルということか)
レンは理解を諦めた。
『アイミッタです』
補助脳のメッセージが浮かんだ。
(ん?)
視界の指示線に促されて振り返ると、壁面にある観測窓にアイミッタの小さな顔があった。
ユキが島を離れていて寂しいのだろう。母親のミルゼッタが船の整備をしている間は、レンの近くにやって来る。
(ナンシーさんから貰ったナノマテリアルはどうなった?)
レンは銃をアイテムボックスに収納し、穴だらけのターゲットシートを丸めながらアイミッタの方へ向かった。
『吸収中です』
(吸収……そうなの?)
いつもなら、あっさりと摂取を終えて、能力アップがどうこうと通知をしてくるのに、今回はやけに時間がかかっている。
「くんれん、おわり?」
扉を開けて部屋に入るとアイミッタが小走りに駆けてきた。
「うん、終わった」
「まきす、よんでる」
「……マキシスさんが?」
「うん、こっち!」
アイミッタに手を引かれ、レンは狭い通路を抜けて島内の地下街へ通じる階段へ向かった。
「あっ……」
不意に、アイミッタが立ち止まった。
「どうした?」
「かるど」
「かるど?」
「うん……そと」
アイミッタが射撃場へ戻り始めた。
(……かるど?)
内心で首を傾げながらも、一生懸命に手を引っ張るアイミッタに合わせて走る。
「かるど!」
射撃観測用の窓がある部屋から外へ出ると、アイミッタが空を指差した。
「……カルドリーン」
レンの眉根が寄った。
空に、半透明の巨大な
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"ティック・トック"は、理解の難しいスキルだった!
空に、カルドリーンが現れた!
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