第23話
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
僕はそんな徳大寺さんと過ごすのが好きで、もっと一緒にいられる時間が増えたらいいのにと思っていた。
そんなある日の昼休み。徳大寺さんがスマホの画面を見つめて、顔をしかめた。
「……週末あたりに台風が来るみたいだわ」
「そうなの?せっかくの休みなのにね」
「本当に。困ったものね、トカゲさんは」
「トカゲさん?」
「今回の台風の名前よ」
徳大寺さんは、気に入ったモノに名前をつける習慣がある。もしかして、台風が好きなのだろうか。
僕が何を考えているのか察したようで、徳大寺さんは柔らかい笑顔で首を横に振った。
「私が名前をつけたわけじゃないの。台風委員会という台風防災に関する政府間組織があって、2000年から台風にアジア名をつけているのよ」
「へぇ、初めて知ったよ」
「日本・カンボジア・中国・北朝鮮・香港・ラオス・マカオ・マレーシア・ミクロネシア・フィリピン・韓国・タイ・アメリカ・ベトナムが台風委員会に参加していて、発生順にあらかじめ用意された140個のアジア名をリスト順につけているの」
「141個目以降はどうなるの?」
「またリストの最初に戻るのよ。台風の年間発生数の平年値は25.1個だから、おおむね5から6年で台風のアジア名が一巡することになるわね。日本は星座の名前を使っていて、今回のトカゲも日本が提案した名前なのよ。リストで言うと117番目ね」
やっぱり徳大寺さんは博識だ。そんなところが、たまらなく魅力的だと思う。
「トカゲが襲来するのかぁ。あまり酷くならないといいね」
「そうね。私達の周りで吹き荒れるのは……こ、恋の嵐だけで、十分よね」
「鯉の嵐?もしかして、徳大寺さんも錦鯉が好きなの?」
「え?……えぇ、そ、そうね」
「じゃあ入部しない?錦鯉クラブに。実はあと1人入ると部活に昇格できて、予算も増えるんだ」
それに徳大寺さんが入部してくれたら、今より一緒にいられる時間が長くなる。これはチャンスだ。
徳大寺さんは少し戸惑っていたようだけど、僕の顔を見て、意を決したように大きく頷いた。
「分かったわ……謙介くんの為になるのなら、私、入部する。昔から“錦鯉の朱莉”と呼ばれていて、実は錦鯉に詳しいのよ」
やっぱり、徳大寺さんは変わっている。
錦鯉にまで詳しいなんて、さすがだ。これから錦鯉について語り合う時間が増えるのを想像して、僕はとても気分が高揚していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます