第22話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 その日、徳大寺さんは少し元気がない様子だった。気になったので、昼休みに理由を尋ねてみた。


「実はね。昨日、父を傷つけてしまったの」

「え、どうして?何かあったの?」

「私が、どうしてもお好み焼きが食べたくなって。お夕食に作ったのよ」


 料理上手な徳大寺さんは、家でもよく夕飯を作っているらしい。そんなところも素敵だ。娘の手料理なんて、親からすればとても嬉しいものだろう。


 でも、徳大寺さんは悲しそうに目を伏せた。


「帰宅して、私が作ったお好み焼きを見た瞬間……父がとても悲しそうな顔になって。そしてこう呟いたの。そうか、朱莉もそっちなのか……って」

「そっち?」

「実は、父は大阪出身なの。そして私が作ったお好み焼きは、広島風だったのよ。母が広島の人だから……」


 なんてことだ。徳大寺家に、仁義なきお好み焼き戦争が起こってしまうなんて。

それを避けるために、徳大寺さんのお母さんは、家族全員が揃う食卓にお好み焼きを出したことがなかったらしい。


「お好み焼きを食べるのは、いつも父の帰りが遅いとき。弟も広島派で育ったのよ。だから家族の中で、父ひとりが関西派……。それを察して、あんなに悲しい顔になったんだわ」

「そっか。価値観の相違ってやつだね」

「家族であっても、価値観は違うのよね。父に悪いことをしてしまったわ」

「今度は、関西風も作ってあげたらいいよ。お互いを知れば、きっと手を取り合って生きていけると思う」

「そうね。ありがとう、謙介君。8:2の割合で、両方作ることにするわ」


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 関西風と広島風、どっちが8割なのか訊けないまま、その日の昼休みは終わった。

 ちなみに我が家は無派閥なので、広島風か関西風かは母の気分で決まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る