第16話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 だけど、たくさん話すようになって、彼女がとても優しくて素直な人だと知ることができた。

 予想もしない方向から話題が出てくることはあるけれど、僕にとってはそれがすごく楽しかった。


「なぁ、橘と徳大寺って、付き合ってんの?」


 いつものように中庭で弁当を食べていると、通りかかったクラスメイトの男子に突然尋ねられた。


「え?付き合って……」

「付き合ってはいないわよ」


 ……あれ、そうだったっけ。


 よくよく考えてみたら、徳大寺さんからはっきりと告白はされていなかった。

 僕も、していない。


「でも、いつも一緒に飯食ってるし、一緒に帰ってるじゃん」

「そうね、仲良しではあるわね」

「なのに付き合ってないわけ?」

「付き合いましょうっていう約束は、していないわよね」


 徳大寺さんに話を振られ、僕は思わず反射的に頷いた。

 クラスメイトがさらに何か言おうとしたけれど、友達に呼ばれて立ち去って行った。


 僕はなんとなくばつの悪さを感じて、徳大寺さんが作ってきてくれたマレーシアの定番練り物とやらを口に運んだ。


「えっと、すごくおいしいね、この……ハタハタ?」

「オタオタよ、謙介くん」

「あはは、僕がオタオタしちゃった……なんちゃって」

「ふふ。まだまだね、謙介くん」


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 でも僕は、そんな彼女のことが好きだなと思った。

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