第12話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 二人でよく会話をするようにはなったけど、僕はまだ彼女のことをよく知らない。 


 ある日の帰り道。チワワが飼い主に連れられて軽快に散歩をしている姿を見て、徳大寺さんが目を細めた。


「犬、好きなの?」 

「うちでも飼っているのよ、チワワ」

「そうなんだ。少し意外だな」

「意外?」

「勝手なイメージだけど、徳大寺さんは猫の方が好きそうな気がしたんだ」

「そうね、よく言われるわ。猫派っぽいって」


 他人と連れ立ったりしないところが、なんとなく猫好きっぽいなと勝手に思っていた。


「猫も犬も、どっちも好き。どちらかを選ぶ必要ないもの。みんな、白か黒かはっきりさせたがるわよね」

「そっか、そうだよね。僕、きのこの里とたけのこの山のどっちが好きか、決められなかったんだ。それと同じだよね」

「そうね。白か黒か決めなくてもいいと思うのよね、なにごとも」


 僕は自分の浅はかな考えを恥ずかしく感じた。

 犬派とか猫派とか関係なく、徳大寺さんは、徳大寺さんだ。


「ちなみに、きのこが山で、たけのこが里よ、謙介くん」


 でもやっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 きのこの山は、なぜか傘と柄を分けて食べるらしい。

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