第13話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 興味のある分野がとにかく広くて、とても博識だ。

 うちの高校を選んだのは、大きな図書館があるということがポイントだったらしい。


 いつものように部活が終わって図書館へ行くと、窓際の席ではなく、パソコンコーナーに徳大寺さんがいた。


「あ、謙介くん。見て、これ」


 声をかけると、少し興奮した様子で徳大寺さんが言った。

 パソコンの画面を見ると『イカに自制心があることが判明』と書いてある。


「え、イカに自制心……?」

「そうなの。イカたちにエビのかけらと生きたエビを提示して、彼らがエビのかけらをすぐに食べるのを我慢できれば、より美味しい生きたエビを与える……という実験をしたらしいの。そうしたら、どの個体も50~200秒の間、エビのかけらを食べることを我慢したって」

「へぇ、すごいね。イカって頭いいんだ」

「耐えることでより良いものを得ようとするなんて、ヒトよりも自制心があるかもしれないわね」


 新しい知識を得た時の彼女の目は、本当に輝いている。


「私、このイカたちを見習って、決意したことがあるの」

「どんな決意?」

「今日はね、口の中がとってもクレープな気分で……帰りに絶対、駅前のクレープ屋さんでカスタードイチゴを食べようと思っていたの」

「あぁ、あそこ美味しいもんね」

「でも、我慢するわ。もう少しお小遣いを貯めてから、グレードアップしてイチゴ雪見だいふくクレープを食べることにする。……その時は、謙介くんも一緒に食べましょう?」


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 でも、時折見せる年頃の女の子らしさが、とても可愛い。

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