第5話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 その日は顧問の先生の都合で、部活が1時間も早く終わった。

 いつもどこからともなく現れる徳大寺さんの姿が、今日は見当たらない。

 僕は帰り支度を整えて、図書室へと向かった。


 窓際の席に、徳大寺さんがいる。後ろから近づいて名前を呼ぶと、弾かれたように顔をあげた。


「け、謙介くん。部活、もう終わったの?」

「うん、先生の都合で。何を書いてたの?」


 徳大寺さんが開いているノートには、びっちりと文字が書かれているようだ。


「え、えっと……小説を書いていたの」

「へぇ。どんな小説?」

「もやしの一生を書こうかなって……」


 ……もやし?食べる、もやし?


「そうなんだ。もやしがどんな一生を送るか、僕は考えたことなかったな」

「か、書き終わったら……謙介くん、読んでくれる?」

「え、いいの?」

「うん、嫌じゃなければ」

「むしろ嬉しいよ。楽しみにしてるね」


 ノートをちらっと覗き見すると、『たとえ日陰者と言われても』という、タイトルのようなものが見えた。


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 ちなみに、僕はもやしっ子ではない、はず。

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