第4話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 昼休みになるといつも、自席で小さな弁当箱を広げて黙々と食べているらしい。

 僕は購買部へ買いに行ったり学食で食べたりしているから、徳大寺さんの弁当の中身をよく知らない。


 その日の昼休み前、珍しく教室内で徳大寺さんが話しかけてきた。 


「謙介くん、今日はお昼ご飯持ってきてる?」

「ううん。購買で買おうかなって」

「あの……それなら、一緒に食べない?じ、実は、その……作ってきたの」


 徳大寺さんが、少し頬を赤らめながら言う。

 一瞬、胸の奥がきゅっとなった。


 教室だと恥ずかしいようなので、中庭のベンチで食べることにした。

 徳大寺さんが差し出した、大きめの弁当箱を開けてみる。そこには、茶色い何かが4つ敷き詰められていた。


「えっと、今川焼きを作ってみたの」

「美味しそう。食べていい?」

「うん、どうぞ」


 左端の今川焼きを手に取って口にすると、食べても食べても中身が入っていなかった。皮には、ほんのり甘みがある。


「ふふ、それ、ハズレだ」

「アタリとハズレがあるんだ?」

「うん、全部中身が違うのよ」

「じゃあ、今度はこれにしてみよう」 


 右端の今川焼きを食べてみた。

 ………酸っぱい。猛烈に酸っぱい。


「あ、それは当たり」


 僕の反応を見て、徳大寺さんはとても嬉しそうに笑う。

 あまりの酸っぱさに頬のあたりが痛くなってきた僕は、思わず両脚をじたばたさせた。


「中に入っているのは、梅肉エキスよ。疲労回復にとってもよく効くの。最近、授業中とても眠そうにしていたから、疲れているのかなって思って……」


 僕の身体を気遣ってくれたんだ。すごく嬉しい。

 お礼を言おうと思ったけれど、感激が身体中を駆け巡っていて言葉にならない。涙まで流れてくる。

 そんな僕を見て、徳大寺さんはニコニコしながら言った。


「世界一酸っぱいって言われている梅肉エキスなの」


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 ちなみに残り2つの中身は、炊き込みご飯と白身魚のフライだった。

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