第11話 仲間を作りましょう5 ★

2021/11/07に大幅加筆修正しました。




「じゃ、じゃあ、その転生っていうのが本当だとして、アルとアンジェリカ嬢は前世で同じ時代に生きていた者同士……ってことで良いの?」


 イアンがまとめてくれる。しかも俺に配慮して言い方まで気をつけてくれた。

 十才だよ? 完璧すぎない?

 完全な信用は得られないのは覚悟の上なので構わなかったけど、こうして理解しようとしてくれるのは本当に嬉しい。


「接点のなかったお二人に共通の記憶があるのは理解致しましたが……本当にそんな御伽噺のような事、有り得ますの?」

「でも本当だと仮定しないと説明がつかないよ」

「そうですが、そんな簡単に……」


「転生の可能性は十分あるぞ?」


 議論に一石投じたのは、ジリアンだった。


「スルッと信じるのはどうかと思うぞ」


 反応したのはリオンだ。

 リオンとリリーシアの言い分はわかる。俺だって、急に転生だなんだと云われても、そんな直ぐに信用なんて出来ない。


「なんの根拠もないとでも?」

「先程アンジェリカ嬢の事を擁護しようとしていただろう」

「それは貴方もだろう。真実を隠されてのあの説明だったからな。良い方に捉えても致し方ない。だが、今回はちゃんと根拠がある。何せ私たちの分野なのでな」


 紫とエメラルドの瞳が火花を散らしそうになる。

 それを止めるように口を開いたのはディルクだった。


「君たちには馴染みのない分野だけど……ボクとジリアンは表向き魔導師団という組織に入っているけれど、実際の所属は“星古学”なんだ」

「えっ、えぇ! うそ!?」


 衝撃的な事実に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 星古学はつい最近学んだハイレベルな機関の名だが、まさか身近に所属している人がいるとは思いも寄らなかった。


「なんだ。アル、知ってたの?」

「ディルクやジリアン嬢が所属しているのまでは知らなかったけど、その機関に関しては最近学んだからね……国の機密機関でありそこの研究者の存在も秘匿される機関に友人がいるなんて、そりゃ驚くよ」

「よく学んだねぇ、アル」

「王子として、次期王として当たり前の事だよ。だから皆、ここから先の事は他言無用だからね」


 まるで勉強を頑張った子どもを褒める親のようなディルクに呆れる。

 周囲に知られる訳にはいかない機関の名を軽々しく口にするだけでなく、自身がそこの機関の一員とまでカミングアウトするとは思わなかった。

 見て。箝口令敷くほどなのかって、皆固まってるじゃないか。


(天才だと思っていたけど、まさか十才で加入するなんて……機密の中の機密じゃないか)


【星古学】

 世界の成り立ちや歴史、星と生命の因果関係や、星やヒト・魔力のエネルギーの循環、遺跡や書物の古代文字の解読などを研究する機関だ。

『世界の全ては等しく循環している』と唱えた、古の魔導師――フリンダーズ の意志を引き継ぎ研究するこの機関は、いつも各地に飛び回り、日々研究に励んでいる。


 その星古学及び星古学者が秘匿されているのは、知識を蓄えた人材の存在を他国に知らせないためだ。

 重要な知識を得た学者が他国に出てしまうのは、それだけで国の損失になる。それを国は避けたい。

 機関そのものを表に出さないのは、完璧に隠すには学者だけではなく機関そのものから隠した方が漏洩を避けられるからだ。

 だから魔導師は資格を得る時に国に忠誠を誓い、決して他言しないよう特殊な魔法を施した契約書にサインするようになっている。星古学者になる者にはまた別の契約書も存在するほど、その存在は保護されている。

 勿論、魔導師及び学者には多額の報酬が出されているし、手厚い保証もされている。ただし、契約を破った時は……言わなくてもわかるだろう。『その後姿を見た者はいなかった』パターンである。


「星古学者は便宜上身分を魔導師としているから、知らないのも無理ないかな」

「魔導師団の中に星古学の機関が存在する、という事ですの?」

「そうだね。星古学者は研究のために魔力の多い場所に向かう事も多いから、必然的に魔力があって扱える者に限られるんだ。だから始めに魔導師として学んで、そこから研究の道に進めば星古学者、そのまま魔法を極めれば魔導師、って感じ」

「魔導師が頻繁に各地に赴くのは実は学者として、という事か」

「完全に学者だけで行動する訳では無いが、概ねその通りだ」

「なんだか、凄い人たちにお願いしちゃったね」


 話しを聞いていたヴィクターが苦笑する。

 わかるよ。まさか国に関わる事に接触してしまうとは思わなかっただろうし。

 存在感が薄くなっているがイアンもウィリアムもポカンとした顔をしている。あまり変わらないのは、普段ポーカーフェイスを極めているフィンだけだ。


「……それで、君たちにとって“転生”とはどんな理論なんだ?」


 聞く姿勢に戻ったリオンに、隣に座るリリーシアは胸を撫で下ろしていた。まるで荒ぶる夫が静まった事に安堵する妻のようだ。


「えっと、まず命のエネルギーの話からになるんだけど、時間と一緒で、一定のリズムで一方通行にグルグル回っているエネルギーがこの世界の流れ。ボクたちはその流れの中から産まれて生きて、そしてまた流れに戻るのが命の流れであり、輪廻なんだ。よく『土から生まれ土に還る』っていうでしょ? そんな感じ」

「一度エネルギーのサイクルに戻った命は別の命として生まれてくる。だから前世というものは存在しないのだが、稀にそのままの命で生まれてくる場合がある。それが生まれ変わり……転生と、私たちは言っている」

「姿形はその時の遺伝子で左右されるから違う場合が多いけどね。ただ本質は一緒だし、前世もある」


 同じ命がそのまま生死を繰り返す事、か。

 十才でその理論を理解出来るのは、一体どれだけの人数いるだろうか。いや、そもそもそんな事すら考えない。リオンとリリーシアも凄いけど、ディルクとジリアンは別次元だ。世界が違い過ぎる。


「そんな人、聞いたことなかったなぁ~」

「居たとしてもそんな非現実的な事、誰も信じないだろう。実際殿下の告白も信じなかった」

「確かに……最悪迫害に遭う可能性もある以上、安易に口に出来ないだろう」


 持ち直したイアンとウィリアムが質問しつつ理解を深めていく。

 この世界は、前世の世界より異質なものに敏感だ。『気味が悪い』と思われれば、疎外されたり最悪村や町を追われたりする。他者と違う事に狭量なこの世界で、そういう異分子的な話しをするのはデメリットしかない。なら黙って平穏な人生を歩んだ方が良いと思うのは普通の事だ。


「実例はあるのか?」

「少ないが、存在はしている」

「そういう誰かの過去を拾うのもボクたちの仕事だからね」


 二人の説明に、リオンが「成る程」と考え始めた。

 リオンにとって、こういう現実離れした話しは未知の領域なのだろう。なかなか受け入れられないのは別次元の話だからだ。

 だが彼自身理解がない訳では無い。受け止めるのに時間がかかるだけ。少し固い部分があるリオンにしたら、今回の事は良い刺激になっているのかもしれない。その調子で、将来ノエル断罪に疑問を持つようになってくれたらと願う。


「じゃあ、アルやアンジェリカ嬢みたいな、別の世界から来た場合はなんなの?」

「彼らの様に、何らかの問題で彼らの世界の輪から命が抜けてしまいこの世界に入った場合、それは“異世界転生”と呼ばれている。命だけでなく身体そのものが来た場合は“異世界移転”だな」

「待って。その身で来ちゃう人もいるの?」

「転生より少ないが、実例はある」

「頭がおかしくなりそうだ」

「同感」


 まさか異世界移転まであるとは……この世界、何でも有りなのか?

 自分自身が異世界転生した事に驚いているのに、異世界移転まであると聞いて目眩を起こしそうになった。


(泣き言なんか言ってられないけどね)


 俺には知らない事、知らなければならない事が多い。必要なこと全てが足りなさすぎる。

 ノエルを守るには、今以上に知識も力も必要になってくる。魔法だって学んで扱えるようにならないといけない。断罪回避のために、頑張らないと。


「この世界以外に世界が存在するだけでも壮大な話なのに、世界を飛び越えて来ちゃうのはもっと凄いよねぇ」

「前例があると仰りましたが、一体どんなものですの?」

「大分身近な話しだぞ」

「“先読みの巫女”の話しは知ってるよね?」


 ディルクの問いに、俺意外の全員が頷いた。

 うん……頑張ります。


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