第12話 仲間を作りましょう6 ★

2021/11/08に加筆修正しました。



【先読みの巫女の物語】



 今からずっと昔。とある町に一人の少女がいました


 少女の家は貧しくその日食べるのがやっとでしたが、少女の母親は彼女を心から愛してくれていたので、少女は貧しいながらも幸せに暮らしていました


 そんなある日、少女は魔法の力を覚醒させ、魔法学園に通うようになりました

 魔法を使える子どもは、必ず学園に通わなければなりません

 母との別れを嫌がる少女でしたが、いつか家に帰り母を楽させてあげようと気持ちを新たに学園に通う事にします

 そんな少女に、母親はお守りを渡しました


『これを持っていれば、きっと良い出会いがあるわ』


 母親に励まされた少女は、笑顔で学園へと向かいました



 学園に通うようになった少女は、始めこそ独りぼっちでしたが、次第に友だちが増えていきました

 意地悪をされることもありますが、友だちはどんどん増えて、少女は平穏な学園生活を送っていました


 そんなある日、少女は運命の人と出会いました

 同じ学年のこの国の王子様です


 王子様と仲良くなった少女は毎日が楽しくて仕方ありません


『こんなに友だちが出来て嬉しいわ』


 少女と王子様の仲はどんどん深まっていきます

 しかしそれを良く思わない人もいました

 王子様の事が好きな貴族の令嬢です


『王子様は私のものよ』


 令嬢は少女を睨み付けました



 ある日、少女はいつもの様に王子様に話しかけました

 しかし王子様は少女を無視します


『わたし、何かしてしまったかしら……』


 少女は考えましたが、思い至る事がありません

 その日から、王子様は少女からどんどん遠ざかっていきました



 夜、寂しい思いを抱えながら眠りに就いた少女は夢を見ました

 夢では、黒いモヤモヤに覆われた王子様が、少女を良く思っていない令嬢と一緒にいました

 王子様と令嬢は少女を罵ります

 悲しくなった少女ですが、ふと、彼女は気が付きました

 令嬢の指輪から黒いモヤモヤは生まれ、王子様に纏わり付いていることに……


『あれを壊したら、王子様は元に戻ってくれる』


 少女は王子様を助けるために動き出しました



 学園で行われるお祭りで、少女が夢で見たのと同じことが起きました

 少女の目の前には、寄り添いながら少女を罵る王子様と令嬢の姿があります


『王子様、目を覚ましてください!』


 少女は強く願いました

 すると少女の身体は眩い光を発して、周囲を光で包み込みました


『ぎゃぁぁぁぁぁ!!』


 悪魔のような叫び声を上げた令嬢は、慌てて指輪を投げ捨てました

 令嬢の指は火傷したように酷く爛れています


『今だわ!』


 少女は指輪を拾い、壊れるように強く願いました

 すると、黒ずんでいた指輪は パキン と音を立てて壊れました

 指輪から出ていた黒いモヤモヤも消えて、王子様も以前の優しい人に戻っていました


『助けてくれてありがとう。こんな私だが、ずっと一緒にいてくれるかい?』

『はい。私も、ずっと一緒にいたいです』


 二人は見つめ合って、キスをしました



 その後、学園を卒業した王子様と少女は結婚して、少女はお姫様になり、王子様と末永く幸せに暮らしました

 未来を夢に見て王子様を助けた少女は、“先読みの巫女”としてその名を残しました





*****





「……わかった?」

「あ、はい。とっても」


“先読みの巫女”の話を知らない事を素直に伝えた俺は、ディルクとジリアンに連れられて……星古学の研究室に来ていた。勿論、みんな一緒に。


『ま、待て!! 早まるな!!』

『あの、わたくしたち部外者ですし』

『契約書とか、必要ではないのか?』

『ん~……大丈夫だよ、きっと』

『大丈夫でも国家機密の密集地になんて行きたくないよぉ~!!』

『皆優秀だから多めに見てもらえるだろう』

『その自信はどこから来るんだ』

『イヤだぁ~まだ死にたくない~!!』


 そんなやり取りをしたのは二時間。

 結果、急遽俺から国王に申請して、仮許可証を下ろしてもらった。契約云々は後日保護者同伴で行うらしい。

 因みに、俺はその場で怒られた。言い出したのは俺じゃないのだけは主張しておきたい。

 子どもと言えどそんな無茶振りは不可能で、申請していなかったら『その後姿を見た者はいなかった』パターンになっていてもおかしくはなかった。

 幼き天才たちよ、先ずは常識を身につけてくれ。


「なんか、本当にもう、感謝とか緊張とかでいっぱいいっぱい」


 俺が言い出したことではないけれど、俺の無知が招いて皆を巻き込んだのは確かなので、そこはしっかり感謝したい。

 それはそうとして、自分の無知に心底嫌気が差す。皆は「仕方ないよ」と云ってくれるが、それがまた申し訳なさを増していった。

 だって、童話だよこれ。子どもだった頃がある人間なら誰だって読んでる話だよ? アルフレッド、なんで知らないんだよ。


(嘆く暇があるなら頑張らなきゃな)


 深呼吸をして気持ちを入れ替える。

 仮ではあるが許可も下りて知識の中心部に入る事が出来たんだ。これを好機に捉えて、どんどん学んでいかないと。


「それで、この話しのどこから異世界の仮説が生まれたのですの?」


 童話の文字を追いながら、リリーシアが小首を傾げた。

 確かに、この童話から異世界を想像するのは難しいと思う。


「実はこの童話、実際にあった事件を元に書かれてるんだけど……事実と童話、違うんだよね」


 説明をしてくれるディルクに、ジリアンが何処からか持ってきた分厚い本を手渡した。

 焦げ茶色の表紙がボロボロになった本は、相当使い込まれているのがよくわかる。


「この童話が生まれたのは約千年前。舞台は今も健在な学園・グランディオーソ。事件はあの学園で起きたんだ」


 ペンや資料を端に寄せたデスクの上に本を広げながら、ディルクが説明を続ける。ジリアンは話しを近くの黒板にまとめ始めた。

 本当に十才なのかと疑いたくなる……十才だよね?


「ちょっと読んでみて」

「読んでみてと云われても……出だしから違うじゃないか」


 皆に問うディルクに困惑気味に答えたのはリオンだった。


「主人公の少女は、平民ではなく貴族の令嬢……しかも公爵令嬢だったんだな」

「王子の呪いを解いたのも公爵令嬢だったなんて」

「呪いをかけたのは本当は平民の少女で、壊れたのも少女が持っていたお守り……ブレスレットか」

「公爵令嬢の指輪も呪いの道具ではなく、呪いから守るためのものだったなんてねぇ」


 書かれている真実に一同呆然とする。

 事実をねじ曲げて童話にするのは珍しい事ではないけれど、これはちょっと悪意に満ち過ぎている気がする。一体公爵令嬢が何したっていうんだよ!? と思うくらいには酷い。


「平民の少女もずっと平民だった訳じゃなくて、学園に入る前に男爵家に養女として入っている。少女が身に着けていたブレスレットも、男爵が渡したものだよ」

「ここまで事実と違いますと、なんだか百年の恋も冷めた気分になりますわ」

「“王子を助けた平民の少女”とすれば、同じ平民のウケは良いからな。貴族を良く思っていない平民も多いだろうし、悪役を公爵令嬢にすればそういう層にも人気が出るだろう」

「うーん、悪意に満ち過ぎてるなぁ」


 みんな俺と同じ意見だったようだ。

 わかるよ……売れるためとはいえ、これは公爵令嬢が可哀想だ。


「それで、さっきのリリーシア嬢の疑問なんだけど、王子を呪いから救った公爵令嬢は、こんな事を言い残してるんだ」


 広げた本を数ページ捲り、ディルクはある文を指さした。


“私には、前世の記憶があります。私が生きていた世界は、この世界を物語りとして語っていました”


“その物語を知っていたお陰で、私は殿下を救う事ができました。恐らく、男爵令嬢も私と同じ前世を持っていたのでしょう。そのため攻防戦が続き、学園を混乱に陥らせてしまいました”


“私が転生者である事実を、ここに眠らせます。私は今後、殿下の隣で後世に残る働きをしていく覚悟でございます”


 古くなった文字に、皆息を呑んだ。

“先読みの巫女”といわれる理由がわかるのと同時に、公爵令嬢の体験したことは、前世でプレイした乙女ゲームの悪役令嬢視点にも思えて仕方ない。


(この世界で同じような事が繰り返されている? 時代は繰り返すものだけど、こんな馬鹿馬鹿しいことまで?)


 だとしたら、こっちがどれだけ回避しようと奮闘しても、怖れていた強制力が発動する可能性もあるのかもしれない。

 いずれにせよ、気が抜けないのは確かだった。


「これがボクたちが異世界を信じる理由だよ。千年も前の話だけど、実際起きた事件として残っている以上、切り捨てるのは早計だって事で研究が続いているわけ」

「王妃となった公爵令嬢は、日々私たちが使っている魔道具を生み出した。その知恵も、異世界の知識を頼りに作ったのであれば、その奇抜な発想力にも頷ける」

「ボクたちが転生を信じる理由、わかってくれた?」


 にっこり微笑んだディルクの視線の先には、何とも言えない顔をしているリオンがいた。


「……すまなかった」

「構わないよ。ジリアンもケンカ腰だったし」


 微妙な空気が漂う。

 俺もノエルに当たりが強かったら同じ事しそうだし、気持ちはわからなくもないけれど、気まずいものは気まずい。


「あ~、それで? アルとアンジェリカ嬢の前世の話に繋がるの?」


 イアンが空気を変えようと本題に戻してくれる。

 もうイアンが救世主にしか思えなくなってきた。


「ん~、そうだねぇ。ここでは異世界の存在の可能性を講義したかっただけだから、後はアルの話しを聞こうか」


 皆がこちらに目を向けたのを確認して、俺は自分の前世の事を説明し始めた。


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