第9話 仲間を作りましょう3 ★
※2021/10/31に大幅加筆修正しました。
ウィリアムを保護し、友人たちに手紙を出してから三日が経った。
「みんな、忙しい中集まってくれてありがとう」
俺の目の前には、手紙を送った友人とその婚約者たちがいた。
(よかった。みんな来てくれた)
先に参加の旨は聞いていたものの、“王子”という権力者ではなく“友人”という一人の人間の頼みを聞いてくれるのか、この三日間は本当に不安だった。
子どもといえど忙しいのに、皆応えて集まってくれたのが嬉しい。安堵で心の声が震えた。
今日まで気が休まらなかった俺に、フィンは『大丈夫です、王子。例え誰も来なくとも、私は王子の味方ですから』と云っていたが、一体何が大丈夫なのかを問い詰めたいところだ。
「君が改まって協力を仰いで来るのは珍しいからね」
遠回しに『普段は我が儘だ』と柔らかな声音でそう云うのは、魔導師団団長の令息であり、自身も魔導師である、ディルク・プラネルトだ。尚、事実なので反論も何も出来ない。
(それは今後改善していくとして、先日ノートに書き出した時にも思ったけど……ゲームのディルクとは髪の色が違うのか)
ゲームの中の彼は、母親と同じ栗色の髪をしていた。だがアルフレッドの記憶の中の彼同様、目の前にいる小さな魔導師の髪色はなんの混じりもない白だ。
(湖に静かに咲く白い睡蓮みたいな雰囲気だな)
存在感がありながらも圧倒させるような強さはなく、周囲を落ち着かせる雰囲気を醸し出す様が白い睡蓮を連想させる。
何でゲームと違う色を持っているのか。まさか幼少期の苦労で白くなったという事はないだろう。薄い青色という瞳の色も、ゲームではもっと濃かったように思う。
設定と違う理由は何であれ、ゲームと違う現象が起きている事は喜ばしい。変化は大歓迎だ。
「ホントだよね~! 改まっちゃってさっ。オレ、驚いて二度見しちゃったもんっ」
軽い口調で追い打ちをかけて来るのは、女好きに見えてただの人好きなだけな男。三大貴族の内の一家、マクスウェル公爵の嫡男である、イアンだ。
「まぁ、これは個人的なお願いだから」
「アルも成長したんだな」
「誰だって切っ掛けと本人のやる気次第で変われるということですわ、リオ」
苦笑いの俺には気付かないで関心しているのは、イアンと同じ三大貴族の内の一家、コートネイ公爵の嫡男・リオンと、その婚約者であるリリーシアだ。
分家の令嬢だからだだろうか、リリーシア嬢はリオンの髪と瞳の色を薄めたような色を持っていた。関係を知らなければ兄妹と見間違えるほど似ている。
「うちの問題なのに……すまない」
情けないと俯くヴィクターも、三日前に会った時からまたやつれた様に見えた。
少し長めの黒髪は若干乱れ、金色の瞳はウィリアムと同じくほの暗く見える。嫡男という事もあり責任感も強く感じているのだろう。
六つ年下の俺たちに協力を仰ぐ事にも神経が抉られているはず。アカリに狙われたがために平穏が奪われた事に同情しかない。あの我が儘怪獣をどうにか出来る人間なんて早々いないので、そんなに悩まないでほしい。
「しかし、私とリリーシア嬢は本当に来ても良かったのか? ディルクたちは友人という枠があるが、私たちは完全なる第三者だろう?」
勇ましい口調で疑問を口にするのは、ディルクの婚約者である、レディング伯爵家の令嬢・ジリアンだ。
先にみんなと同じように普段通りの口調で良いと言ってあるので問題ないが、何処にでもいる令嬢と同じ口調から一変、まるで屈強な女性剣士のような言動には圧倒されてしまった。前世でも聞いた事がない。
(全体的に、エネルギーに溢れてるような子だな)
夕焼け色の髪を一つに束ね、エメラルドグリーンの瞳には言い難い力強さを感じる。
決して目力があるという訳ではなく、生きる力に溢れているような、そんな力だ。
「確かに無関係だけど、今後は無関係じゃなくなるから。むしろ居てくれた方が都合が良いんだ」
「無関係じゃなくなる?」
「何か起きるという事ですの?」
俺の言葉に、みんな訝しげな目を向けてくる。
冷ややかな視線が痛いけど、突拍子も無い話に内心馬鹿にしようが呆れようが、そうやって注目してくれる事が重要だ。先ずは良くも悪くも興味を抱いてほしい。
「うん、そんな感じ。と言っても、行動次第でどうにか切り抜けられるかもしれない」
「……その起こり得る何かを対処するために力を貸してほしい、ってとかな?」
「そういう事。勿論、今回のウィルの件解決も含めてね」
ゲームの舞台は学園だ。それまでに、まだ六年という猶予がある。それなのに、その前に人生崩壊しそうな危機に陥ってしまった。
本当は、一人一人順番に関係回復しつつ今より絆を結んでいきたかった。だがそうも言っていられない。それほどまでにアカリの無駄な行動力は尋常じゃない。もっと他に発揮すればいいのに。
荒唐無稽な話だと思う。信じてもらえるなどと期待はしていない。けれどここまで来たからには全てを打ち明けて素直に手を貸してもらう他道はない。
「みんな、話し合いの前にウィルの様子を見てもらったと思うけど、どう思った?」
「「あれは酷い」」
ヴィクター以外のみんなの声が被った。それも真剣さの籠もった声音だったので、真っ正面からそれを喰らった俺は思わず背を反らした。
無理も無い。
それほどまでに、今尚寝込んでいるウィリアムの状態は芳しくないのだから。
「あの負傷兵のような生気のない姿はどうした?」
「まるで昔のボクみたいだったね」
「腕が枝じゃないだけマシだと思うが?」
「一体何を張り合っているんだ……」
「他者ではなく、普段のウィリアム様とお比べになった方が宜しいかと」
「ウィル、かわいそう」
各々言いたい事を言っているけれど、皆ウィリアムの状態が最悪だということは共通しているようで安心する。
そうだよな。酷いよな……それがわからないアカリがヤバいんだけど。
(心の準備はいい? ヴィクター)
チラリ とヴィクターの様子を窺えば、彼は意を決したように小さく頷いた。
今の俺からすればヴィクターは大分年上のお兄さんだけど、前世二十を越えた俺から見れば、彼もまだまだ子どもだ。ヴィクターからすれば自分より下の子どもに相談など恥ずかしいだろうけど、今回ばかりはそうも云っていられない。恥を忍んで打ち明けてほしいと思う。
「ウィルのミイラ化の原因はね、彼らの妹が関係してるんだ」
「いもうと?」
「妹って……産れたてで手がかかるとか?」
「婦人会でそんな話しは聞いたことありませんわ?」
初めて聞いたと、皆驚きよりも困惑の方が強いらしい。
そりゃそうだ。なんの前触れもなく妹なんて存在が出て来たら、貴族の裏を感じて身構えてしまう。
でも、事実は貴族の裏以上に酷いのだけど。
「僕も詳細まではわからないから、そこら辺をヴィクターに説明してもらおうと思うんだ」
実際、アンジェリカがジュード家に来た経緯などは知らない。俺が知っているのは、アンジェリカことアカリの所業に、ジュード家が疲弊しているという事だけだ。
ジュード家の問題にズカズカと足を踏み入れるようで申し訳ないが、アカリ対策として一から知っておきたい。
(利用するみたいで悪いけど、アカリの話しから俺の転生、乙女ゲームの話にまで持って行ければいいからね)
『乙女ゲームの世界に転生した』と言ったところで、きっと誰も信じないだろう。信じられないと言った方が正しいかもしれない。最悪頭がおかしくなったと思われるのが関の山だ。
だからこそ、状況確認をしつつ、少しでも納得してもらえる様に進めていきたい。
ヴィクターは皆の顔を見渡した後、ジュード家で起きている問題を説明し始めた。
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