神様のいる場所
でも、空の上に居る神様に私の物語を直接届けたい。
そう思うようになってからは、極力空に近づける様に歩道橋を利用するようになった。
私の物語を観て欲しいから。
他の有象無象なノイズに邪魔されたくなかったから。
ある日、神様になり損ねた男に質問された。
「君は、神様に会いたいの?」
私は答えた。
「仮に、神様が存在するとして。直接会いたいわけでも、声を届けたいわけでもなく、ましてや神様になろうとしてるわけでもないわ。ただ、私という触媒を通してたくさんの物語を届けたいだけなの」
「だからこんなことしてるってわけね」
「貴方がなろうとしている神様がどんなものかはわからないけれど、ちゃんと届けてあげるから安心なさい」
「それでこんな変なところに建ってるわけか…この店」
「元々この店を所有していたのは私じゃないけれどね」
「なぁ…。神様は天空に居るってよく言われてるけど、本当に居るのか?」
「さぁ…。実際に見たことがあるわけじゃないからどうかしらね」
「あいにく、人間ってのはもう宇宙に行けてるんだぜ?それでも会えてないんだから、お前がどんなに空に近い場所に行ったって無駄だと思うけどね」
「物理的な天空と、概念としての天空は別なんだからしょうがないじゃない」
「上は頑張れば行くことが出来る時代になってきた。それでも、地中に行くのは難しいと思わないか?」
「そうかしら?確かに人間は宇宙へ行けるようになったかもしれないけれど、地中と違って終わりが無いんだから可能性は無限大ってやつじゃないかしらね」
「確かに、地中には終わりがある。だって地中の先は地上だから。でも、その現実はわかっていても辿り着けないのが地中ってもんだと思うな」
「言われてみればそうね。頑張って触れる事はできるかもしれないけれど、辿りてけるかは別問題だものね」
「そうそう。少なくとも、雲の上に神殿なんて無かったし天使だっていなかっただろ?」
『まぁ、月の裏側には行ったことがないけどな』
神様になり損ねる未来を選んだ男は、挨拶もなしに姿を消した。
「蒼、またこんな所に居たんですね。」
「珍しいじゃねーか、早く帰らないとまたゲソがうるさいだろ。」
可愛い2人を連れて、私は自分の住処へと帰ることにした。
破れた雑記帳 桜木 彩 @aya_sakuragi
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