夢想曲


 幼稚園に通っていた頃、テレビで観たアイドルが可愛くて憧れだった。

 私もいつか、あんな可愛い衣装を着て歌って踊りたいと思っていた。


 ピアノやヴァイオリンを習っていた訳でもないから、小学校の授業は大変だった。

 鍵盤ハーモニカには『ドレミファソラシド』のシールを貼った。

 楽譜にはカタカナで音符の上に『ドレミファソラシド』を書いた。

 これが逆に読みにくくて、『ファ』は他の音よりも字数が多いのでイラッとした。

 それでも、やっぱり歌うのは楽しい。

 ハーモニカを吹く時に、目印がわりに輪ゴムを『ド』の部分に巻いた。

 唇をずらす時に引っかかって分かるようにするためらしい。

 でも、金属と輪ゴムの味は最悪だった…。

 その味を誤魔化すために飴をなめたら、べとべとのざらざらになってしまった。


 でも、中高生になる頃には少しづつ現実を知り始める。

 自分が運動音痴な事実と、アイドル活動のルールについて。

【恋愛禁止】

 このルールの重みは、年齢を重ねるごとに実感していくことになった。

 中高生の『恋愛禁止』と、社会人の『恋愛禁止』とでは比べものにもならないだろう。


 けれど…。

“恋”を知ることを禁止されている人間の言の葉は何の意味があるのだろうか。

“恋”を歌っているのは“アイドル”なのか…。

 それとも別の存在なのか…。


 それもこれも全て、“夢物語を紡ぐ者”の仕業なら何も口出しする事なんてできやしないものね。

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