反対側の相棒

 いつからか影から視線を感じるようになった。

 灯りを消して、瞼を閉じて、脳内の神経回路を落としていく時、何かが奥の方から伺っている。そんな感じがする。

 しかし嫌な感じではなかった。

 むしろ、うたた寝をしていたら日差しが知らぬ間に差していた時のような温かさを感じた。


 満月の夜、駅から家まで帰る途中で背後から視線を感じた。振り返ると、自分の影に丸い2つの目玉があった。フェルト人形なんかに貼り付ける動眼と言うやつそっくりだ。さして恐怖は感じない。

 目玉がきょろりと回ってボクを見る。

 ―そうか、おまえがオレの体なのか。

 とでも言いたげだ。ボクも影に言ってやった。

「初めまして、影。ボクはどんなふうに見える?」

 ―なかなか悪くないね。ちょっとくたびれてるけど。

「余計な事いうんじゃないよ」


 それから、ずっと影、というか、影に住む目玉と暮らすようになった。

 彼は「かげすみの精」だと名乗り、それ以上は教えてくれなかった。

 守護霊のようなものかと聞くと、そう思いたいならそうすればいい。と投げやりな調子で言うのだった。

 そう言われるとなんだか気になるようになって、ボクは夕暮れ時、彼が一番大きくなる時間に散歩をするのが日課になった。雨の日以外は。




 お題「かげすみ」

 https://twitter.com/hacca0505/status/1370289878445948928?s=20

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