自家製スープバーの男
仕事を始めた私のために、夫は週に2、3度、夕飯を作るようになった。
しかし夫は料理が下手だ。作る物はだいたい決まっている。
カレー味か、シチュー味か、または味噌味の薄いスープ。底の方にはいつも、筋張ったキャベツや、ふやけた煮干、ひき肉まみれの餅などが、グロテスクな姿で沈んでいる。
何度かそのスープを味わった後、どういう訳か私は死んだ。らしい。
気がつくと家の屋根裏にいて、天井の隙間から台所を覗いていた。
しばらくの間、夫はスーパーの惣菜やお弁当を食べていたが、飽きたのかあの薄いスープを作るようになった。
相変わらず手際は悪いし分量も適当、せめて野菜の皮は剥いて欲しい。
そんな風に思いながら眺めていたある日、夫と一緒に見知らぬ女が帰宅した。ショートカットの若い女の子だ。刈り上げた襟足から伸びた細いうなじが美しい。会社の同僚だろうか?
彼女のおかげでスープがマシになればなぁ、などと思っていると、夫は彼女の頭をつかみ、煮立った鍋に突っ込んだ。悲鳴すら聞こえなかった。
翌日、屋根裏の隅に白い2本の足があった。形状や手触りからして女のものだ。夫が昨日のスープを食べると足より上の部分が現れ、1週間かけてようやくあの女の子の姿になった。
「あなたは……係長の奥さん?」
「うん。でももう死んでるから元妻なのかな」
「奥さんも食べられたんです?」
「さぁ。あんまり覚えてないの」
それから、私たちは一緒に台所を眺めるようになった。
夫は次々に老若男女を連れ込んで、あらゆる方法でスープを作った。そのたび屋根裏の人口が増える。おかげで寂しくはなかったが、だんだん覗き見する隙間が足りなくなってきた。
「あらあら、今度は新入社員よ」
「活きが良さそうだけど大丈夫かね?」
「ハンマーで殺るみたいだし平気じゃない」
「うへえ!悪魔のいけにえだ!!」
「それならフックも用意しないと」
口々に言いながら覗くうち、天井がミシミシ言い出した。やばい、底が抜ける!
夫がハンマーを振り上げた瞬間、ついに隙間が破けて私たちは雪崩落ちた。ひっくり返った鍋から熱湯が溢れて夫に襲いかかる。
夫は沸騰したヤカンのような悲鳴をあげてドロドロに溶け、自ら薄いスープになった。
お題「昨日のスープ」
https://twitter.com/hacca0505/status/1372842874325245955?s=20
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