第7話

「4巻までは貸すけど、5巻以降は自分で買ってね」


 5巻の内容は、もう送ってある。そして、それが自分の最期。


「ああ早く週末にならないかなあ」


 ちょっとだけ、笑った。

 週末になれば、自分は消える。幻想に融けて、いなくなる。

 彼女のとなりにいると、なぜか楽しかった。彼女が底なしに明るいから、かもしれない。いつも笑っていて、そのくせ普通にしている。うるさくない。静かでもない。絶妙な、普通のライン。

 でも、左胸が気になった。幻想が近いので、気を抜くとすぐ見えてしまう。彼女の、存在しないはずの左胸が。なるべく幻想を遠ざけて、左胸が見えないように配慮した。彼女の身体は、彼女のものだから。

 幻想についての説明をしようとも、思わなかった。幻想は、ただ幻想。それ以上でも、それ以下でもない。ここにはない、どこか。そして、夢に近いけど、夢ではない場所。

 自分は、今週末、それに融けて消える。

 だから、ずっとひとりで生きてきた。

 でも。


「君の」


 ことが好き。言いそうになって、思いとどまる。これから消える人間の告白なんて、意味がない。


「左胸?」


「うん。ごめん」


 よかった。告白だとは思われてない。


「見る?」


 彼女。胸の左側をはだける。


「ほら。はずかしくないよ。なにもないし」


「ほんとだ」


 嘘だった。何もないはずはない。見えてしまう。彼女の、左胸が。


「隠さないの?」


「何を?」


「変な目で見られてる。みんなから」


「ね。見られてるよね」


 でも、隠したくない。なぜだろうか。

 手を、伸ばして。

 なにもない左胸に、ふれる。

 やはり、胸は、現実にはない。幻想の中にある。


「ごめん」


 彼女の身体にさわってしまっている。幻想にあるかどうか確かめるだけだったのに。


「さわるなら右のほうが」


 右にはちゃんとついてるし。


「いや、そういうことじゃなくて。ごめん」


 彼女。にこっと笑って、右胸も出そうとしたので、阻止した。

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