第6話
「なに読んでるの?」
そう気さくに訊いてきた彼女。胸の右が、無かった。そして、それが、ある、存在すると、はっきりと分かった。見える。
彼女の胸は、ここにないけど、幻想に存在する。
「漫画」
「え、漫画?」
「ほら。文庫版」
自分の描いた漫画。
「読む?」
彼女。もらった漫画を読み始める。それを眺めながら、彼女の胸の右、こちらから見て右だから、彼女にとっては左胸。左胸を見つめた。
少しだけ、はずかしい。たぶん、幻想的な感覚を研ぎ澄ませば、見えてしまう。彼女の左胸。
胸ではなく、彼女の顔に目を戻す。
どうやら、はまったらしい。
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