ギャルはラーメンを食べに行きたい
「おい徹」
下校時間、ボクは結愛さんに誘われた。
「なんでしょう?」
「ラーメン行くぞ」
ギャルが、ラーメンを。一瞬、思考停止してしまった。てっきりオシャレなカフェか、ケーキバイキングだと思っていたから。
「いいですよ。でもお腹は大丈夫ですか? 夕飯前ですし」
「だから、ミニラーメンを頼むから平気だって」
「なら安心ですね」
「校門で待ってるから。先行ってるぞ」
声だけかけて、結愛さんは帰っていく。
ボクは早速、日直の仕事を片付けないと。
「盛部っ、荘園さんから、なんて言われた?」
「一緒に、ラーメンを食うぞ、って」
「おごらされるのか……ご愁傷様」
町田は、「ボクが結愛さんに弱みを握られていて、パシリにされている」と思っているらしい。そう思いたければ、それでもいいけれど。
「断るなら、今よ。私も説得役に加わりましょうか?」
下柳さんまで。
「いや、いいんだよ。ボクも楽しいし」
ボクの顔を見て、なぜか下柳さんが頬を朱に染めた。
「そ、そうなの。そうよね。なんか、下僕になったらなったで、ご褒美もあるみたいだし」
なにか、妙なことを下柳さんが言い出したぞ。
「ボクの顔に、何か付いているかな?」
「だって。すっごくだらしなくデレェ! ってしているんですもの」
下柳さんから指摘があった後、町田もボクの顔を覗き込む。
「なるほど、そういうカラクリだったのか! 荘園さんの舎弟をさせられているってのに、おとなしく付き従っていたのは」
とんでもないピンク色な誤解を生んだらしい。
「あのね町田、ボクと荘園さんは」
「よせ、これ以上はR18に該当する。言わなくていい」
いや言った方がいいよね。それは勘違いだって。
「支配下に追われることで、夜はあんなことやこんなことを」
「いいえ町田くん。案外、逆って可能性も」
「盛部が、荘園さんを支配だって? ありえ……それはありえるかも」
そんなのないよ。
「とにかく、荘園さんが待ってるから行くね」
日直の仕事を終えて、ボクはカバンを掴んだ。
「ご褒美が待ち遠しいのね」
「ああ、どんなプレイなんだろう。たまらん」
ああもう、無視だ無視。
「お待たせしました」
「よし行くぞ」
ボクはあくまでラーメンを食べに行くだけだ。
「モールのチェーン店でいいか?」
「そうですね。そこが一番近いので」
もっとチャーシューの太いガツガツしたラーメンなら駅前にあるけれど、ボクも苦手である。あの空気は入れない。
辿り着いたのは、ファミリー層向けのラーメン屋だ。ここなら、アイスもあるから色々楽しめる。
けれど、結愛さんは「せっかくだから、こっちにしよう」と別の店を選ぶ。
そこはブ厚めのチャーシューがデンと腰を据えるラーメンである。
「食べられそう?」
「このチャーシューが食べたかったんだ」
結愛さんはやる気だ。
「ファミリー向けも、うまいんだけれどな。今日はラーメンならなんでもいい、ってワケじゃないんだ」
数分待ち、お目当てのチャーシュー麺を前にする。
「いい香りだ。この肉肉しいスメルは最高だな」
「そうですね」
ボクも、同じモノを頼んでいた。お互いにミニラーメンだけど、結構なボリュームがあった。チャーシューで器の中身が見えない。
「いただきます」
「うん、いただきまーす。あくう」
豪快に、結愛さんはチャーシューにかぶりつく。
「これこれ。これがやりたかったんだ! 女一人でこれはできないからな」」
肉を引きちぎり、結愛さんは喜ぶ。
「徹はどうだ、楽しんでるか?」
「おいしいです」
チェーン店だけあって、味は専門店よりはマイルドになっていた。
「デカ盛りはさすがに食べられないけれど、これならチャーシューの濃厚さを味わえる。うまい!」
ムシャムシャと、結愛さんがうれしそうにチャーシューを噛みしめる。
「麺がのびますよ」
「そうだった。どれどれ」
中太のちぢれ麺を、結愛さんはズズズっとすすった。ちっともギャルらしくない。でも、素敵だ。
「んふふ。やっぱり、ファミリー向けのラーメンで妥協しなくてよかった。あたしが欲しかったのは、こういうラーメンだったんだ」
チャーシュー麺を平らげて、結愛さんは満足した様子を見せる。
「やっぱり、ギャるっぽくないか?」
苦笑しながら、結愛さんは問いかけてきた。
「結愛さんらしくて、好きです」
「あたしらしいか。だな。そっちが大切か」
帰りはコスメ探しで、腹ごなしする。
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