第12話
あれから、ラミュエールの手によって魔神討伐されたことはアイセーヌに伝わり、すぐ様世界の滅亡が免れたことが世界に広まった。
どんな伝わり方をしているのかは知らないが、誰が討伐したかは言わないでくれとラミュエールには伝えてあるので、聖女一行が倒したことになってるだろう。
ビンスフェルトの驚異も消え、この島の従業員や観光客が飛行船に乗って戻ってくるのを見ながら、俺は目の前にいる勇者に訪ねた。
「お前はこれからどうするんだ?」
「そうだな……女漁りでもしながら暫く自分を鍛えることにする」
「女漁りはやめとけよ……」
しかし、自分を鍛えるか……。前のコイツから想像も出来ない言葉だな。
「お前……あんまりレジーナさん困らせるなよ?お前に着いてくる奴なんてそう居ないんだから」
「フンっ、アイツは変わった性格をしているからな。俺がほかの女とよろしくしてても喜ぶだろ」
まぁ……それはちょっと言えるかも。
「………当然、分かっているさ」
その後に、小さく呟いた言葉を、俺は聞こえないふりをした。
「……じゃあ、俺はもう行く」
「ん?せっかく魔神倒したばっかりなんだから、もうしばらくゆっくりしていけばいいのに」
ソファから立ち上がる勇者を見て俺は言葉を投げる。実際、俺達は後3日くらいここでバカンスを楽しんでから帰るつもりである。
今のこいつなら、俺はあんまり毛嫌いしないから一緒にいること自体大丈夫だし、アリスやルーナも許容してくれるだろ。
「いや、鍛えると決めた以上。俺は早く行動をする。ひとまずは『黎明の塔』にでも潜るとする」
「え、お前まじ?」
黎明の塔とは、大昔に自分を鍛えることが趣味だった神童が作った、強いモンスターがたくさん出現する所だ。あくまで、自分を鍛えるということを目標としているのでその塔からモンスターが出てくることは無いし、死ぬこともない。
あの塔自体が特別な空間で仕切られており、なんでも『トレーニングルーム』という不思議な名前が着いているのだという。なぜ死んでも無事なのかは今でも分かっていない。
「あぁ。良い機会だ。俺があそこでどこまで通じるかどうかが分かる。それにあたってティルファ―――――今一度、今度は本心からお前のことを勧誘する」
「…………お?」
一瞬、コイツに何を言われたのか分からなかった。
え?なんて?勧誘?
「どうだティルファ。お前のその力、俺の横で力を奮って見ないか?」
そして勇者は、俺に向かって手を差し出してきた。
当然、俺の答えはただ一つ。
「断る」
「……だと言うと思ったよ」
勇者は、初めて俺の目の前で笑った。
「お父様!」
バンッ!と扉が開く音と共に、可憐な少女の声が謁見の間に響き渡る。
「おぉ、エリメラか。どうした?」
「どうしたもこうしたもたありません!今すぐ戦争の準備をおやめ下さい!」
お父様、と呼ばれた人物は、ご自慢の髭を撫でながら少女を見つめる。
「なんだ、不服か?」
「当たり前です!そもそも、この失態は全てお父様のせいではありませんか!ディルクロッドから収められている税を見ました!国営を担っている半分とはどういうことですか!」
「……お前、それをどこで知った」
「メルジーナさんから聞きました!私があの方と関わりがあるのは知っているでしょう!」
太陽に透ける白銀の髪を揺らし、少女は必死に声を掛ける。
「だからお考え直し下さいお父様!誰に唆されたのかは知りませんが、今すぐ戦争の準備を辞め、ディルクロッドに謝罪を―――――」
「おい。そいつを部屋に閉じ込めておけ」
「はっ」
王の傍に控えていた騎士が、少女へと近づく。
「……申し訳ありません、姫様」
「エミル!あなたはそれでも騎士団長ですか!お父様の側近であるあなたは、間違えた王を正すのも――――」
しかし、いい切る前に騎士は少女へと向かって魔法を放つ。騎士の手から魔法陣が洗われ、そこから緑色の煙が発生。それを吸った少女は、ゆっくりと意識を閉ざした。
「優しいものだな」
「あなたの娘なのですから、当然です。失礼します」
そして、騎士は少女は脇に抱えて謁見の間から退出する。
「……くくくっ。さてメルジーナよ……儂の国から独立したこと、後悔させてやるぞ」
そう呟いた王の眼は、片方黒に呑まれていた。
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