第11話

 まず一番最初に潰すのは『暴食』の権能からにする。暴食の能力は『全てを喰らい、エネルギーに変換する』という大変厄介なものだ。


 だがしかし、これにはしっかりと弱点があり、喰らう量にもきちんと上限があるということ。完全だった時にはもしかしたら上限なんてなかったかもしれないが、この弱点はしっかりと活用させてもらおう。


 これを潰す方法は至って簡単。俺が直接やつに受け止めきれないほどの魔力を流せばいいだけである。


「マリナ様、援護よろしくお願いします」


「うん、任せて」


 マリナ様とアイコンタクトをして一斉にビンスフェルトへ向かって突撃する。俺はマリナ様の後ろで魔力を練り上げながら待機をしておき、マリナ様が露払い。


 マリナ様の実力は信頼している。だから俺は他の何も気にしないで集中出来る。


「!」


 そして、ビンスフェルトまでの道が出来るとマリナ様を追い越してビンスフェルトの本体である顔(?)の一部分に触れて魔力を流し込む。すると、耐えきれなかったので一部が暴発して自身にダメージを与え始めた。


 一つ目、攻略完了。


「次」


 俺はそのままビンスフェルトに張り付いて次の権能を潰す。次に潰すのは『怠惰』の権能。


 怠惰の能力は『攻撃を逸らす』というシンプルだが厄介な技だ。


 本体な動かないで、まるで攻撃自体が避けていくような感覚。大変厄介だがどうやらこれにもきちんと上限がある。それは天翔る雷の槍ブリューナクで確認済み。


 だが、物量作戦は実に効率が悪い。だから、ビンスフェルトの領域を無くすことにする。


「結界展開」


 俺は、ビンスフェルトに対して結界を張る。この結界は、一部世界を切り離すという空間魔法を応用した魔法で、現在俺たちがいるこちらと、ビンスフェルトがいるあちらは、定義上別世界という括りになる。


 逸れる空間があるのなら、逸らさせなければいいと言うことである。ちなみに、結界はビンスフェルトの体表を覆うように展開しているため、うっかりこちらが結界の中に入るということは無い。


 次に潰すのは『嫉妬』の権能。能力は『視認した相手の技を盗み、自分のものにする』というもの。


 なれば潰すのは簡単。視認させなければいいのだ。


 俺は、マリナ様、勇者、俺を対象とした幻惑魔法を発動させる。これで常にビンスフェルトは俺たちが分身して見えるようになっているだろう。効果がしっかりと現れているのか、触手が全く違う場所を攻撃しだした。


「これで三つですね。傲慢は考えなくても良いので残り半分です」


「え?傲慢はいいの?」


「はい」


 傲慢の権能は『命令の強制執行』である。だがしかし、こちらにも同じ権能を持っている武器があるため、相殺できる。


 残りは『色欲』『憤怒』『強欲』の三つ。だがしかし、この三つはぶっちゃけるとそこまで俺は危険視していない。


 色欲は『相手を発情させ、戦闘が出来ないようにさせる』、憤怒は『受けたダメージ分攻撃力が上がる』、強欲は『欲が強くなり、それを叶えるための力が手に入る』である。


 ぶっちゃけ、色欲は精神安定の魔法を掛ければそれで終わりだし、憤怒はそもそも攻撃に当たらなければいいだけ。強欲に関しては多分、発動していてこの強さだから脅威にすらならない。


 つまり、後はどんどんタコ殴りにするだけで事足りる。


 二十分後。権能を封印した魔神はただの強敵となり、見事にマリナ様に一刀両断された。


「……なんかあれだな。後半凄い弱かったな」


 隣に来た勇者がそう呟いた。


「結局、強いのはビンスフェルトじゃなくて権能の方だったと言うわけか……」


 こうして、世界を破滅させると言われていた魔神は見事打ち倒されたのであった。

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