第5話
次の日。
ヌワイ島にいた全員の一般人の避難が完了。この島に残ったのは、俺達と一部の戦える人物のみ。この日は音沙汰なし。
二日目。
運悪く勇者と遭遇。一瞬だけ睨み合ったが以外なことに勇者は俺に噛み付いてこなかった。
「レジーナ。少し下がってろ」
「え……あ、うん……」
そう言った勇者は、俺に三歩だけ近づく。そのアクションに対して、後ろにいるアリスとルーナが三歩下がったが……少し、やつの様子がおかしい。
「ティルファ。少し、1体1で話がしたい」
その言葉に驚く。だって、こいつが俺の事を呼ぶ時は大抵『役立たず』なのだから。
「……あぁ、いいだろう」
「ちょ、ちょっとティルファ……大丈夫なの?」
身を翻し、歩き出した勇者の背中を追おうとすると、後ろからルーナに服を掴まれる。
「大丈夫だ。今のアイツなら安心だろう」
今の奴からは、昔のような高圧的な態度は変わらないし――――そもそも、奴ならば俺と会わないように行動することだって可能だ。こうして、俺に会ったということは何かしらの用があるのだろう。
ルーナの手をゆっくりと離して、アイツの背中を追う。すると、後ろからアリスの声が。
「何かあったら言ってください!全力であの勇者のを削ぎ落としますから!」
一体何を、とは聞かないようにしておく。なんだか股間がヒュンッ!てなったから。
そのまま、勇者に黙って着いていくこと約三分。奴は、戦闘に面影の残る砂浜の前で止まった。
「……お前は、一昨日の触手二本を相手取っていたな」
「まぁ、そうだな」
マジでコイツどうしたんだ?いつのもの覇気が全くもってないんだが。
「………俺は、昨日人知れず触手と戦った」
「なんだと?」
そんな気配、一ミリも俺は感じなかった。
「俺も出会ったのは偶然だ。突然とした湧き上がる海柱……今回の敵は、俺の気配察知にも引っ掛からずに目の前にまでやってきやがった」
勇者が、自身の拳を強く握る。その事に、俺は目を見開かせた。
こいつは今、『悔しさ』でいっぱいの自分を、何とか宥めようとしている。
「アイツと戦っている時、レジーナが少し怪我をした。あの触手は何とか倒せたが、アレが二本となると――――きっと、俺は死ぬ」
勇者が、悔しさを滲ませた目で俺を見つめてきた。
「……頼む、ティルファ。お前の力を俺に――――レジーナを守るために、力を貸してくれ」
コイツが、昨日の戦闘で何を思ったのか知らない。
だけど、今分かるのは、コイツが誰かのためにこうして頭を下げ、自分の弱さを見つめて、こうして俺に頭を下げている。
………勇者、やってんなこいつ。
「俺は、お前が嫌いだ」
「っ」
「旅の二日目に化けの皮剥がれたし、女漁りやめないし、自意識過剰だし、雑用押し付けるし、宿ではわざわざお前としっぽりよろしくやってる声を響かせるし、罵声を浴びせてくるし、お前めっちゃ理不尽だし……正直、なんでレジーナさんがまだお前と一緒にいるのか訳わからん」
「んぐっ」
自覚ありかよ。
「……だけど、お前の勇者として正義心だけは、認めている」
俺は、二歩歩いてエリアスの前に手を伸ばす。コイツが今、プライドも何もかも全て投げ捨て、こうして俺に助力を乞いているのなら、俺もその思いに答えなければならない。
「今回な、真面目に共闘するぞ勇者エリアス。安心しろ、俺がいればお前は最強だ」
傷一つ、お前に付けさせたりなんかしない。
「………あぁ」
そして勇者は、頭を上げて、俺の手を握った。
勇者と一緒に戻ると、すぐさまアリスとルーナに手を引かれて離されては「大丈夫?」「殴られたりとかしませんでしたか?」と聞かれた。
「安心しろ、今のアイツは今この瞬間だけ、頼れる我らが勇者だ」
この言葉に、二人は首を傾げた。まぁ意味わからんだろうな、さっきのやり取りを見てない2人からすれば。
「……勇者様、喧嘩とかしてないよね?」
「安心しろ。それよりも、今回もアイツらと共闘だレジーナ。俺が頼み込んだ」
「………え!?勇者様が頼み込んだ!?嘘でしょ!?」
「うるせぇ!お前を守るためだ!それならば俺の頭なんざいくらでも下げてやる!」
……ほんと、あいつ昨日だけでどのくらい変わったの?隣にいるアリスとルーナが信じられないような目で勇者を見た。
「……え?同一人物……?」
「あれ、本当に同じ勇者ですか?別人と言われた方がまだ信じられますけど……」
分かる。その気持ちはめっちゃ分かる。
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『魔導少女達とススムミチ!』
『ドイツ人の美少女義妹は既に付き合っているつもりでいる。』
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