第6話

 その後、勇者を連れて一時的に借りている部屋へと案内する。そこで作戦を立てることになったのだが――――


「ただいま」


「あ、先生!おかえりなさ――――」


 出迎えてくれたメリウスが固まった。その事に疑問を覚えたラミュエール達も俺の背後にいる人物を見て固まった。


「く……く……く……」


 わなわなとラミュエールが指をエリアスへと指す。こら、人に指をさしたらダメだとおっさん達から学ばなかったか?


「クズ勇者ーーー!!」


「おい、なぜ俺はいきなり初対面の聖女に罵倒されなきゃならんのだ。事実だが」


「そういうとこだろ、お前」


 罵倒をされたが、事実なため特に怒らないで受け流したエリアス。まぁ少しは不満なようだが。


「ここであったが百年目です!ティルファ様が受けた苦しみを今!私が!この聖女ブローでお返しを―――ふぎゅ!」


「待て。一旦待てラミュエール」


 エリアスの顔を見て拳を振りあげようとしたラミュエールの頬に、ペチンと両手で軽く叩いてから止める。その後にほっぺたをもにゅもにゅと揉む。


「ほら、落ち着け」


「むぅぅぅぅ!!」


 しかし、本人は俺の人生を追体験しているからか、やはり怒りは収まりそうにない。


「ティル。ラミュエールを抑えておけ。ルーナ、アリス、ほかの面々に説明よろしく。俺はエリアスと作戦を立てる」


 俺の言葉に二人が頷く。目の前のラミュエールは、ティルに両脇から腕を入れられて持ち上げられた。


「レジーナ。お前もあっちいっとけ」


「分かったわ……よろしくね、エルフちゃん」


「わわっ……!露出凄い……!」


 レジーナさんがメリウスの肩を押しながら女子陣へと向かっていく。


「……さて、作戦を立てる前にお互い、情報を共有しておこうか」


「その前に、なぜ初対面の女が俺を見て『げっ』て顔をした」


「そりゃお前……お前だからだろ?」


「なんだその訳分からん理由は……」


 いや、お前の性格知ってたらこの一言で終わるんだが……。


「まぁいい。エリアス、お前どのくらい魔神のことを知っている?」


「一応、小耳に挟んだ程度だ。遥昔に、とある勇者が命を犠牲にしてまで封印したと」


「そうか……それならあの魔神ビンスフェルトについてもう詳しく教えておくか」


 そして俺は、エリアスにティルから聞いた魔神についての情報を話す。七つの大罪という権能があるということや、あの触手はただの先兵だってこと。


 その事を聞いたら、エリアスが頭を抱えた。


「あれが……先兵?」


「実力が不安なら、明日にはマリナ様がここに来るから修行をつけてもらえば?」


「……そうさせてもらおう」


 ……しかし、こいつ本当に丸くなったな。昨日、こいつの身に一体何が起きたのだろうが。


 気になる。めっちゃ気になるが、態々傷を掘り返す必要は無いからな。このまま真面目路線で勇者を貫いてくれ。マジで。







 俺は、夜にこのヌワイ島を散策していた。理由は、昼にあの役立たずが謎の触手を倒した瞬間を見たからだ。


 あいつが倒せるならば、俺だって倒せる。後から追いかけてきたレジーナも俺に「何を焦っているの?」と聞かれたが、俺は焦ってなどいない。


 そう、思っていたはずなのに……っ!


「レジーナぁぁぁぁぁ!!!」


「カハッ……っ」


 アスカロンの必殺技、龍屠る一撃ドラゴニックバニッシャーをまさか分裂することで躱し、俺へと無数の触手が迫り来る。すると、急に俺の目の前に出てきた人影。


 レジーナは、そのまま触手に巻き付かれると、1本の触手がレジーナの腹を貫通。


「レジ――――」


「勇者様!今!」


 声を掛ける俺を諌め、トドメをさせと声で訴えるレジーナ。俺は、悔しさで歯を噛みながらもう一度、龍屠る一撃ドラゴンニックバニッシャを放つ。


 今回はしっかりとあたり、全てが塵になって消滅すると同時に、レジーナの体がドサリと砂浜に落ちる。俺は慌てて腰から全ての怪我を治す『エリクサー』を取り出す。


 口に含み、そのまま口移しで飲ませる。コクリと喉が動いた音がするのを確認して、ゆっくりと顔を離した。


 貫かれた腹へ視線を移動させると、直ぐに怪我の修復が行われていたことに、安堵のため息を吐いた。


 ……油断、なんてしなかった。でも、事実俺はあの触手一本で命の危機を晒してしまったし、こうして必ず守ると決めた女が傷ついた。


 ……大事な女守れなくて何が勇者だよ……クソがっ。


「……悪い」


「謝らないで、勇者様……あなたが無事で、私は………」


 俺の頬に手を伸ばしたあと、そのまま気絶するように眠ったレジャーナ。俺はそいつを両手で横抱きにして決意をした。


 絶対に、もうレジーナを傷つけさせない。その為ならば、どんなことをしてやると。


 お前は、俺が必ず――――

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