第4話

「よっと」


「おとと……」


「キャッ…」


 咄嗟の転移だったので、着地の瞬間に二人が体勢を崩したが、そこは俺が何とか支えて転ばさせなかった。


「ふぅ……すまんな、いきなり手を掴んだり、急に転移とかして」


「いえ、謝る必要は無いわティルファ。正直言うとものすごく助かったわ」


「はい、むしろお礼を言うのはこっちの方です。ありがとうございます」


 ぺこり、と頭を下げるアリスとルーナ。


 俺たちが転移した場所は、大通りに面している路地裏で、すぐ左を真っ直ぐに行けばそのまま大通りに出ることが出来る。


 まだ朝早くなので、ここら辺を歩いている住人は全然いない。いるとしたら、早朝散歩が趣味な人がくらいだろう。


 さて、勇者にも確認したが、いつも通りの時間……朝10時の鐘がなるまで自由時間だ。何故かって?そんなもん朝のうちにいたいけな女の子を見繕うために決まってんじゃん。


 朝のうちに、好みの女に声をかける。好みなら、人妻でも遠慮なく声をかけるからなあいつ。そして、夜の楽しみのために今日を生きる。


 いやぁ、振り帰ってもほんとクズの所業みたいなことばっかりしてるなほんと。しかも、勇者というネームバリューと、イケメン顔でほとんど初対面なら百発百中だし。


 ほんとピー(自主規制)


「俺はこれから適当に街をぶらつくけど、二人はどうする?」


「そうですね……では、私はティルファさんについていーーーー」


「悪いけど、私とアリスはちょっと二人で話したいことがあるから」


 俺に着いていく、と言おうとしたアリスの口を、ルーナが後ろから無理やり塞ぎ、被せるようにして言った。


 …………え?


「ふぇ!?ふふなふぁん!?」


「ということで、今日は一人で回ってちょうだいティルファ」


 それじゃあね~と言って、ルーナは自信に身体強化をかけながらアリスを連れていった。


 ……いや、別に俺はそれでもいいんだけどさ………アリスの意思はどうなの?合流した時にそれで仲違いとかしてたら嫌よ?俺。


 まぁ、そういうことは全然なかったんで本当に良かったんですが。


「よし、全員揃ってるな」


 一応、集合10分前には街の門前には辿り着いていた俺。2人仲良くやってきたルーナとアリスに少しホッとはしたものの、勇者の顔を見た瞬間、イライラが急激に上がってきた。


 今日のあいつは一段と機嫌がいい。どうやらなかなかな好みの女を引っ掛けることに成功したようだ。嫌だなぁ………女の好みで勇者の機嫌が分かってしまうほど、こいつのこと分かるなんて嫌だなぁ……。


 記憶消したい。


 アリスは、スピード重視の剣士なので、比較的軽装な鎧を肩と胸にだけつけており、ルーナは、俺と同じで魔法の効果が色々と着いているローブを着ており、勇者の装備は黄金に輝く聖具と呼ばれる、勇者にしか着れない鎧と、聖剣を腰にさしていた。


 聖剣の名前は………確か、あ……あす……あすかーろん?なんかそんな感じのやつ。興味無さすぎて聞いてなかったが、確か自身が強大だと決めた相手と戦う際に、斬れ味と耐久力、そして、自身の身体能力が上がるらしい。もちろん、普通の場合でも半端ないんですけど。


 俺たち勇者パーティーが現在受けている依頼は、サイクロプスという緑色の体をした、体長10メートルを超える一つ目の鬼だ。


 魔物には脅威度ってのがあって、だいたい大雑把に分けるとC~SSまであるんだが、Aまでが冒険者と呼ばれる魔物退治を専門としている人達が片付けられて、それを超えると街ひとつが簡単に滅ぶほどの魔物だという。


 今回のサイクロプスの脅威度はS。まぁ、大雑把に言えば、国が戦力を上げてようやく討伐できるくらいだろう。


 だからこその勇者。単体で、ほとんど無敵の守護者が街のため、国のために討伐へ向かう。


「よし、それじゃあ出発するか。早いところ終わらせたいしな」


 それには激しく同感だが、お前はただ女とよろしくやりたいだけだろうがと思いながら、歩く勇者の背中を見つめる。


 アリス、ルーナと視線が会い、やれやれと肩をすくめると、重い足を動かし、横一列に並んだ。


「手がかり……見つかるといいんですが」


「ほんとよね……あんな巨大なのに、なんで三ヶ月も探して手がかりなしなのよ」


「それだけ逃げるのが上手く、知能が高いということだ……油断するなよ。もしかしたら地面からドーン!って可能性もあるからな」


 まぁ、今日から俺は勇者に追放されるようにワザと手を抜くんですけどね。


 楽しみだなぁ………勇者がほんのちょっと苦労するのを感じて俺にどうやってブチギレるのか。そんで、お前なんていらん!って言われたら俺の勝ちの超イージー。


 精々、俺を追放するまでの間、少々手こずりな。俺、できる限りの全力でお前の邪魔するから。

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