第3話
さてさて、朝起きたら二人が両隣にいたから緊急脱出(簡易転移魔法)を使い、外に出た俺。煩悩をかき消すために、頭から冷たい水を魔法で精製して浴びながら、どうやって追放まで持っていくか考える。
え……っと、まずいつも勇者にかけてる補助魔法を全力の一割くらいでかけるでしょ?今まで三割くらいだったけど……まぁ大丈夫か!
そんで、ルーナの魔法発動速度より遅くして、勇者が怪我した時の回復魔法で治すのにも時間かけて……。
………あ、やっぱあいつに補助魔法かけるのやめて、逆に状態異常になる魔法でもかけるか?魔物に当てるつもりが、ついつい勇者も巻き込んじゃってすいませ~ん(棒)的な?
お?これ完璧じゃね?どうせあいつ自分が怪我しても俺のせいにするし、それでイライラを溜めてもらって、俺を追放する。
完璧だな。完璧すぎる。これがオールパーフェクトってやつかもしれんな。
「………ん?」
頭上から、ひらひらと舞う何か。それをキャッチすると………姉からの魔法手紙である。
………あれ、俺って今日の朝に届くようにこの手紙を送ったんだけど……なに、もう返信し来たの?どれだけの魔力込めてこれ送ったのよ……。
ということは、それぐらい緊急性があるということだ。少しハラハラしながら、魔力を込めた指で封を切って、読み始める。
『拝啓、愛しの弟のティルファへ。教師の返事、とても嬉しく思います。追放、とてもいい案だと思います。勝手に抜けると、王家の方から何かお小言言われるかと思いますが、追放ならば何も問題は起きません。さすが私の弟です。
教師の席はいつでも空けているので、具体的な日にちが決まったらまた連絡ください。待ってます。
それと、私は既に昔からティルファにゾッコンです。姉弟で結婚は出来ませんが、ずっと一緒にいましょうね?だから惚れてください。
あなたの愛しの姉、フィアンより』
「……………んー?」
何か最後にものすごい事が書いてあったような気がするが……まぁいいや。うん、元々姉さんのことは好きだから、ずっと一緒にいるのもやぶさかでは無いし。
……というかまさかこれ伝えるためだけにこんなにも早い速度で送ったのか?姉さん。
………俺、昨日どんな内容で送ったんだっけ。
基本、魔力手紙というものは、同じ手紙でやり取りをして、書いてある内容を魔力で上書きをするという方法を取っている。
なので、少しこれを応用すれば、前回何を書いたかというのも、見ることが出来る。
さてと、俺はどんな内容でーーーーーーーー
……………………。
……あー。これやってますわ。完全にやってますわ俺。昨日は勇者についてのストレスが一段とやばかったから、ついつい姉さんの手紙に癒されて惚れそうになったんだったな。
そんで?俺への返事が惚れていい?
…………………まじ?
宿へ戻ると、既に下に降りて食事を摂っていたアリスとルーナにジト目で見られた。
「………なんで逃げたのよ」
「逆に目が覚めたらあの状態で逃げないやつがいるのが聞きたいね俺は……すいません、ポーラをひとつ」
アリスとルーナは三人がけのテーブルに座っていたので、空いている席に座ってから店員さんに飲み物を注文する。ポーラというのは、黒くて、炭酸というものが液体の中に入っていて、甘くてシュワシュワしている奴だ。これが美味いから毎朝頼んでいる。
「いつも思ってたんですけど、朝ご飯は食べなくていいですか?」
「俺は朝は少食だからな。アレで腹一杯になるんだ……あ、ども」
昔から、朝はそんなにご飯が入らない体質で、スープ1杯とかでお腹がいっぱいになる。
店員から貰ったポーラを、一気に喉に流し込むと、喉に炭酸が流れ込み、シュワシュワしてくる。
あー…うめぇ……。
「……よく朝から飲めるわよね……あんな砂糖たっぷりな飲み物」
「ですよね……私とか、少し油断すれば直ぐにお腹の方にーーーーっ!」
アリスの言葉が止まると共に、ルーナの食事の手も止まり、俺も飲みのが止まった。
「それじゃ、またね」
「はい、勇者様……」
見るだけでも吐き気がする、奴の外向けの笑顔。本性を知っているからこそ、あの笑顔が気持ち悪く感じる。
腕を組んだ状態で、また今日も知らん女と降りてきた勇者。聞くだけでも口から砂糖じゃなくて胃液が出そうな言葉を囁き、額にキスをした。それだけで相手の少女の顔は真っ赤になり、慌てて宿から出ていった。
…………あれ、どう見てもまだまだ14歳くらいの女の子じゃね?やば、あいつ………。
元々ドン引きしてたのがさらにドン引きした。
そして、俺たちに気がついた勇者は不敵に笑うと、外向けスマイルを(俺の除くに)送った。
「やぁ、おはよう。今日も可愛いね」
「「………………………」」
ドン引きしていた。なんからイスごと動かして俺の元にやってきて服を掴んできた。
おふたりさん、ナチュラルに俺を盾にするのやめてくださる?
「…………チッ」
おい、そして勇者。俺の顔見るなり不愉快だからって舌打ちするんじゃねぇ、この色ボケ勇者が。
「ちょ!抑えて抑えて!」
「落ち着いてください!」
……っと。二人が耳元で落ち着けと言ってくれなかったら、マジで手が出てたわ。
「……相変わらず、見る目がない女達だ。そんなやつのどこがいい」
「アンタには一生分からないでしょうね変態」
「というか、一生わかって欲しくないです」
「フンっ………まぁいい。俺は女には寛容だからな、その態度は許してやるよ………いつかベッドの上でヒィヒィ言うのが楽しみだな」
「そんな未来、一生来ないから別の女とよろしくやってなさいよ」
「なんだ?嫉妬か?可愛いやつだな」
「………………………………」
ルーナの顔が「ダメだ、早くこいつ何とかしないと」みたいな顔になった。
…………はぁダメだ。このままいたら本気でこのクズ野郎に手が出る。
「………集合はいつも通り、でいいよな」
「………あ?……あぁ、まぁそうだな」
雑談には応じてくれないが、こういったのに答えるのは、少なからず勇者としての心があるからか………まぁいい。
「それだけ聞ければ充分だ………転移」
俺は、アリスとルーナの手を握り、奴の目の前から一瞬にして消えた。
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