聖女

 

「何故…そうだと?」

「さてね。それよりも、確認は後にして早くした方が良いと思うよ?」


 待て勇者。確かに確認している時間が惜しいのは理解できる。しかし、何でお前はシアが聖女であることを知っている? これは教会にすら知らせていないことなのだけど?


 今、勇者がシアのことを本物の聖女だと言ったが、それは本当のことだ。

 じゃあ、今まで聖女として扱っていたフィアは何なのだと言うと、別に聖女ではないと言うことでは無い。しっかりと聖女の資格を有しているし、先ほど浄化魔法を使った通り聖魔法を扱うこともできる。ただ、聖女としての能力が圧倒的にシアに劣ると言うだけだ。いや、別の要素もあるのだが。


 だったらシアが聖女をやればいいだろうと思うかもしれないが、シアの性格では聖女の役職に就くことはあまり良いとは思えない。基本的に動くことが好きだし、じっとしているのは苦手。ついでに守られるのではなく守る方が好きだ。要するに根本的に聖女と言う役職に向いていない。そもそも、最初に王都へ来た理由が騎士になるためだしな。


 妹であるフィアが聖女に就いた理由は、単に俺とシアが王都に働きに出た際に一緒に付いて来て偶々聖女の資格があるとして、教会に聖女認定させた結果だ。

 教会としては年々下がり続けている影響力を少しでも上げようと、聖女を探していた所だったらしく、そんな時にフィアが来たから祭り上げるように聖女の位置に付かせた。あくまで教会が認定しただけで神から聖女と認められたという訳ではないので、聖女の資格はあるものの本物とは言えない。そもそも聖女にあるべき聖痕が無いのだから。


 まあ、そんなこんなで今に至る訳だが、勇者はいつそのことを知ったのかがわからない。俺は勇者に聖女に関わる話はしたことは無いし、勇者からそれに関する話を聞いたこともない。


「確かにそうだな。かの者に聖なる祝福を!」

「どうもー」


 いや雑! 与える側のシアもそうだが、受け取る側の勇者も対応が雑過ぎるだろう!? 仮にも聖女の祝福だぞ。何であんなに投げやりな感じで受け渡しをしたんだよ。


「まさか、奴が本当の聖女とは。しかし、この場から排除できたのは良しとするか」


 いや、魔王。お前もそのやり取り無視するのかよ! 少しは変だと思えよ!


「大丈夫か!?」


 シアがそう言いながら駆けつける。その際に聖騎士たちに足止めされていた国王と大臣のゾンビがシアに両断された。


「俺たちは問題ない。しかし、聖騎士の二人がちょっとまずいな。フィアの浄化だけでは足りていない感じだ」

「そのようだな」


 シアは聖騎士たちの顔色を確認してから、浄化の魔法を掛けた。そして、それから少し遅れて王の間にゾンビたちがなだれ込んで来た。


「想像以上に数が多いな。仕方ない。聖魔結界!」


 俺たちの周りにシアが張った結界が覆う。これでゾンビが俺たちを害することは出来なくなったが、同時に勇者の援護に行けなくなった訳だ。

 まあ、勇者の様子を見るに焦った感じは無いので問題は無いのだろう。さっきも何か秘策があると言っていたしな。

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