ハブられ勇者の付き人やってます 別の場所に旅立った屑王子の体が、いつの間にか魔王に乗っ取られているんだが、どう言うことなんだ？

瘴気に侵される聖騎士

「はーはははっ！　これで俺へまともに攻撃が出来る者は居なくなった。勇者も私には碌にダメージを与えられない。これで私倒せるような輩は居なくなった！」

　魔王はシアに攻撃を当てたことで完全に勝利を確信し、高笑いする。倒したかどうかも確認せずにそうするのはどうかと思うが、確かにあの威力の魔法を食らえば普通の人間であればただでは済まないだろう。まあ、普通の人間ならだけど。

「ちょっと焦ったわ。まあ、これぐらいなら問題なく防げると言うことがわかったから、良しとしましょう」

　魔王の魔法による視界不良が収まると、その中から無傷のシアが姿を現した。まあ、こうなることがわかっていたから大して心配はしていなかったんだけど、無事な姿が確認できて安心した。

「な、何…だと？」

　確実に仕留めた。そう確信していた魔王からしてみれば信じられない光景だろう。ただ、その理由を知っている身からしたら、まあ、そうなるよな。としか思えないのだけどな。

「ははは、さすがだねぇ」

　勇者は元から結果がわかっていたと言わんばかりに動揺することなく、シアのことを褒めているのだが、まさか本当にこうなることを知っていたのだろうか？　

「どう言うことだ！？　何故お前がそのような魔法を…、聖女の魔法を使える！？」

「お前に説明する必要はないわよね？」

　シアが防御のために張った結界を見て魔王が驚きの声を上げる。そもそも聖騎士は聖女の護衛が主な仕事であり、別に聖属性の魔法が使える訳ではない。聖属性の魔法が使えるのは聖女としての才能がある者だけだ。故にシアも聖女になる資格があるとは言えるのだが。

「くっ！　ならばこうする他あるまい！」

　魔王がそう言うと同時に、玉座の横にただ立っていただけの国王と大臣がこちらに向かって来る。それもかなりの速度でだ。

　どう見ても年もいっている小太りの国王が出せない速度でむかって来ている。これも魔王が何かをしたと言うことなのだろうが、もしかして操られているとかではなく国王とかも既に死んでいてゾンビ化しているのか？

　そんなことを考えている間にも国王と大臣はこちらに迫って来る。

「ちっ！　お前ら！　2人を守れ！」

　シアが直ぐに他の聖騎士に指示を出す。それを聞いて近くで警戒していた聖騎士が俺たちの前に進み出る。

「りょうかぐぅっ！？」

「しょがぁっ！？」

　しかし、聖騎士は俺たちの前に進み出たと同時に何故か苦しみだした。そして、国王と大臣が目の前にまで迫って来ていた。

「どうした！？」

「どうしたのです！？　大丈夫ですか！？」

　聖騎士は苦しみながらも迫って来ていた国王と大臣を盾で受け止める。しかし、このままでは直ぐに聖騎士たちは盾を構えることも出来なくなりそうだ。

「はは！　どうやら瘴気が体に回っているようだな。これならもうすぐにそいつらの仲間になれるだろうなぁ」

　瘴気？　もしかして王都に漂っていた黒い靄の事か？　その中に長時間いるとこうなる？　まさか、ここに来るまでに襲い掛かってきたゾンビはそうやって出来ていたのか？　と言うことはこの聖騎士たちも早く対処しなければ、ゾンビになってしまうと。と言うか、俺も拙いのでは？

「フィア！　2人に浄化の魔法を。ついでに俺にも掛けて貰えると助かる」

「わかりました！　かの者らを癒せ、ピュリフィア―！」

　フィアの魔法が発動し、目の前に居る聖騎士を含め俺たち4人に光が降り注ぐ。魔法の効果が切れると同時に前に居る聖騎士を確認すると、どうやら魔法の効果があったのか先ほどよりも苦しそうな感じはしない。しかし、完全に症状が無くなった訳ではないようだ。

「その程度ではその場しのぎにしかならんな！　ははは！　序でだ。近くに居るのもここに呼ぼうではないか！」

「ちっ」

　魔王が増援を呼ぶと宣言すると、シアが悪態をつく。まあ、あからさまにシアをこちらに行かせる策だから仕方のない事ではあるのだけどな。

「すまない、勇者。あちらの護衛を頼んでもいいか？」

　今まで魔王に対して碌にダメージを与えていない勇者が護衛に回った方が得策と判断したシアが、勇者にそう言う。

「いや、君があそこに行った方が良いだろう。それに私には秘策もあるのでね」

「だが」

「魔王は私に任せて問題はないよ。ああ、でも、行く前に祝福が欲しい所だね」

　祝福は基本的に聖女が勇者に向けて放つ身体強化魔法のようなものだ。厳密に言えば魔法ではないようだが、原理がよくわかっていないので魔法として扱われている。

「…何故、それを私に言う」

「だって、君が本当の聖女だろう？」

　話しながらも魔王から意識を離すことなく対峙していたシアの表情が勇者の一言を聞いて、驚きに変わった。