あゝ、哀れなり 魔王・・・

 

「これで準備は整ったな」

「何の準備だ?」

「お前を倒す準備だよ。魔王」


 今まで旅をしてきた中でも見たことが無い挑発的な表情で勇者は魔王にそう言う。しかし、魔王はその発言に対して馬鹿にしたような表情をした。

 まあ、今まで魔王に碌な攻撃を与えていないから仕方がない事だろうけど、さすがに勇者があんな表情をしていることに疑問を持つべきだろう。どうあっても勇者何だぞ? いや、俺でも何をしようとしているかはわからないけど。


「はっ! 俺に対して有効な攻撃方法を持っていない奴がよく言えたものだな」

「ははは、手加減してやっていただけだよ。下手に倒してしまうと厄介なことになりそうだったからね」


 手加減。まあ、確かにそんな感じだったけどさ、魔王相手に余裕を見せるのはどうかと思うぞ勇者。何か理由があるみたいだけどさ。


「ふん。強がりは見苦しいぞ勇者。なに、俺が一思いにやぐぇべっ!?」

「嘘は言っていないのだけどなぁ。まあ、信じてもらう必要もないしここで死ぬのだからどっちでも同じだよね」


 勇者が投げた剣が魔王を玉座に縛り付ける。いや、今まで碌に切れていなかった剣でどうして魔王のことを刺せるんだ? 手加減していたにしても可笑しくないか? もしかして祝福関係だったりする?


「ぐっ、何故俺にこの剣が刺さる? あれの持っている聖剣ならまだしもどう見ても普通の剣ではないか」

「だから手加減していたんだよ。今までも斬ろうと思っていれば斬れた。それだけだ」

「ぐっ。何故抜けないのだ?」


 魔王が剣を抜こうと藻掻くが剣は玉座に深く刺さり動くことは無かった。玉座の強度を考えれば抜けてもおかしくはないはずなのだが、勇者が何かをしたのか?


「さて、終わりにしよう。と言うか、さっさと終わらせたいから巻きで行くな」


 いや、勇者。お前何かキャラ変わった? と言うか巻きって何だよ。


「俺の動きを止めた程度で勝った気になり負って、ただでは…」

「あ、そう言うのは要らないです」


 本当にお前は勇者か? 今までの印象と違う……いや、そうでもないな。結構今みたいに投げやりな感じの対応をしていた時もあったな。


「な…なにを」

「目覚めよ我が剣! 魔を祓いし聖なる剣よ!」


 え? 何事? 床が、いや王城全体が揺れているんだけど。それと勇者が今までにないくらい真剣な表情をしている。お前そんな表情も出来たのか? と言うか、我が剣?

 と言うか、勇者のキャラがブレまくっているのだが、どれが素なんだよ。もしかして、今までが演技だったと言うことは無いよな?


「何だ…これは? こいつの記憶にもこのような物は無いぞ!?」


 魔王が狼狽えている。おそらく王子の体を乗っ取ったからか、王子の記憶も見ることが出来るようだがあの王子が、真面な情報を持っているとは思えないから、乗っ取るなら国王の方尾が良かったのではないか? さすがに年齢が高すぎるか。


「はあぁあぁあ!」


 あ、何か勇者が溜めモーションに入った。何をするつもりなのかは本当にわからないけど、何かわくわくする感じの雰囲気だ。


「何を…ぬ!? まさか下に!? 何故このような力が眠っていた!?」


 ん? 魔王が何か慌てている? と言うことは魔王にとってあまりよろしくない物が下にあると。それと、この揺れの原因は下にあったのか。


「上がれ! 目覚めし聖剣!」

「待て! 止めろぉ!」


 魔王が必死に玉座から離れようと藻掻く。しかし、やはり剣は抜けず玉座もそのままだった。

 あ、玉座の下が少しずつ膨らんできている? いやいや、王城の床ってかなり強固に作ってあるよな? え? あんな感じに変形する物なのか?


「はああぁあぁああ!!」


 さらに溜めるのか。お? 床が割れて下から光が漏れて来た。んん?! その光に当たったゾンビが一瞬で消し飛んだのだけど!? え、これって聖剣から漏れ出ている光なの!? 


「止め、止め」

「貫け!! エクスカリバァーー!!!」


 勇者そう叫ぶとともに腕を振り上げる。それに合わせたように床が崩壊し、光が溢れ出る。そして光は一筋となり、空に向かって天井を破壊しながら魔王を包み込んだ。


「ぎゃあああああ!!!!」


 光が室内を埋め尽くす中、魔王の悲鳴と王城の崩壊の音が周囲に響く。そして、暫く立っていた光の筋は徐々に細くなり、やがて無くなった。

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