攫われた人を助けるのは勇者の仕事
勇者は盗賊に攫われた人たちを助けに行ったようだ
とある村で宿を取った際に勇者があるお願いを引き受けた。
それは、近くの山岳に居座っている盗賊にさらわれた娘を助けて欲しいという物だった。正直な話、攫われたのが数日前と言うことなので、最悪もうどこかに引き渡されているか既に殺されている気がする。
まあ、それはお願いをして来た者も理解はしているようだが、少しでも可能性があるならそれに賭けたいらしい。
まあ、気持ちはわからなくはないな。ただ、勇者に頼むのではなく本来なら冒険者に頼むべきものである気がする。
勇者が乗り気だから、おそらく明日になったらそこに向かうのだろうけど。
そうして翌朝、俺は朝食を取るために宿の食堂に来ていた。時間的にはまだ早朝だけど、夜の内に早朝に食事を出してもらうように頼んである。
これは何時も勇者が直ぐに出発してしまうからなのだが、それでもたまに食べられないことがあるんだよな。なんであんなに早く起きて行動するんだよ。しかもまだ日が昇り切る前の時間に宿を出た時もあったからな。
さて、朝食は出来て……って、今勇者みたいなやつが外に出て行ったような気がしたんだが、見間違いだよな?
「あれ? 従者様は行かれないので? 今しがた勇者様は出発しましたが」
「はぁ!?」
嘘だろ? さっぱりあの後ろ姿は勇者だったのかよ!?
「申し訳ない。もし朝食を既に作られていたのなら別の方に差し上げてください!」
俺は宿の従業員にそう言って部屋に戻る。そして、急いで荷物を鞄に詰め込み、部屋を出た。
勇者が宿を出てから既に数分は経過している。いつもならこれは正直追いつかないどころか完全に見失う時間だ。しかし、昨日の話出俺も盗賊の根城がどこにあるかは聞いているので、そこに向かえば勇者には追いつけるはずだ。
おそらく勇者は、俺も目的地を知っているから何も言わずに向かったのだろう。付き人である俺の立場から言えば、一言ぐらい言っていけ、と怒鳴りたくなるくらいの事なのだが。
まあ、勇者からしてみれば戦力にはならない以上、居ても居なくても問題ない、いやむしろ足手纏いになりかねない俺を一緒に連れて行きたくなかったのだろう。
しかし、俺は付き人として勇者と一緒に居る訳だから、この状況はかなり拙い。いや、別に勇者を無視しても誰かが監視している訳ではないから問題は無いのだけどな。
ただ、後のことを考えるとそれは駄目だ。
俺の妹は聖女をやっているから、ここで俺が勇者の付き人の役割をないがしろにすれば、それが露呈した場合、嫌味を言われたりするだろうし最悪脅されて、なんてこともあるかもしれない。
それに、嫌々ではあるが勇者の付き人に選ばれた以上、俺はそれを全うしたいと思っているんだ。
そう言う訳で、俺は急いでその盗賊が根城にしている場所に向かって走り出した。
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