王子、乗っ取られる
「何なんだよ! どうして俺の魔法が効いていないんだ!?」
王子一行は、他の隊よりも先に魔王が居る居城に辿り着いていた。まあ、元よりおおよその位置を掴んでいたのだから遅くなる訳が無いのだが。
そして王子一行は真っ先に魔王と対峙したのだが、結果は惨敗と言えた。
30人居た精鋭魔導士は床に倒れ伏し、中には血を大量に流している者もいる。おそらく現状生き残っている魔導士は片手の指で足りる程度しかいないだろう。
しかも、魔王はまだ元から座っていた玉座から立ってすらいないのだ。
「ふん。大口を叩いたわりに我に対してダメージすら与えることが出来ないとは、とんだ嘘つき者だな。やはりその身の通り無駄に口が大きかっただけか」
「何だと!? 俺は次期国王だ! 俺を馬鹿にするような奴は死刑にしてやる!」
「どうやってだ? 少なくとも今まで我にかすり傷さえ与えていないと言うのに」
魔王に傷を負わせる方法は限られている。魔の王と称されるだけの存在だ。生半可な攻撃ではかすり傷すら追わない。
そもそも魔王は魔物のカテゴリに入るが、それをさらに瘴気やら何やらを取り込んだ上で極稀に発生する存在だ。元となった魔物により知能はまちまちだが、それ故に通常の魔法や攻撃ではダメージを与えることは出来ない。有効な攻撃は勇者の魔力を纏わせた攻撃か、聖女による浄化以外にはほぼ存在しない。
だから、今回の王子一行の抜け駆けは元から成功する当てはなかったのだ。
「国に戻って聖女を呼び戻す! それならお前を殺せるはずだ!」
「どうするかと思えば他人の手を借りるのか。それではお前の手柄ではなくなるのだが。しかし、聖女が居るのか」
「俺は王子だ! なら国の奴らがやったことは俺の手柄と同じだ!」
「ははは、馬鹿が。そんな訳ないだろう。だがそうか、お前が国の中枢に居るのなら使ってみるのも面白そうだ」
魔王はそう言うとようやく玉座から腰を上げた。そして一般人が視認できない程の速度で王子に近付く。
「何をってな!?」
「少々見目が悪いが、お前の体を使ってやろう。この体もそろそろ限界だからな」
魔王が瘴気を纏わせた手で王子の頭を掴む。
「ぎゃああああああ!!!」
瘴気が王子の体を覆う。体を乗っ取られる衝撃で王子は悲鳴を上げ抵抗するが、魔王の手はぴくりとも動かなかった。
この魔王の元となった個体はアンデット。それも霊体型の魔物だ。故に固定の体を持たず、近くに居た生物の体を乗っ取り、命を維持する。乗っ取られた生物はその段階で死亡し、この魔物が体から居なくなっても生き返ることは無い。
王子の体が力を失い床に倒れる。それと同時に魔王だった存在も倒れた。そして、しばらくすると王子の体が動き出し、立ち上がる。
「ふむ。動かしにくい体だが、まあ、良いだろう。国は何処にあるのか。ああ、なるほど南にある国だな」
魔王は乗っ取った王子の記憶を覗き、国の位置を特定。そしてその方向に向かって移動し始めた。
生き残っていた者も、致命傷を受けていたために王子と魔王のやり取りの最中に亡くなっていた。
そして、その場に残ったのは王子一行の亡骸のみであった。
「国王! 王子が戻られました!」
「おお! そうか。と言うことは討伐に成功したのだな!」
王子の体が魔王に乗っ取られてから数日。国王に王子が帰還したと言う知らせが入った。
「して、あ奴は何処に居る?」
「今こちらに向かっているとの事です。ただ、何か様子がおかしいと言う報告も入っているのですが」
「なに、魔王を倒して気が大きくなっているのだろう」
「そうだと良いのですが」
王子帰還の報告を持ってきた近衛兵の言葉を国王は一蹴し、王子がここにやって来るのを待った。
それから数分もしない内に国王が居る王の間の外から、何やら悲鳴のような声が聞こえ始める。
「何だ?」
「何かが起きているようですね。国王。警戒をお願いします」
「ああ、わかったが、これは…」
国王が近衛兵の助言に頷くと同時に、外から聞こえて来ていた悲鳴がはたっと止んだ。そして王の間の扉が開き、何者かが中に入って来る。
「ああ、ここが王の間か。そしてお前が国王か?」
「王子、何を言っているのです?」
「おお、戻ったか! しかし、よくやっ…え?」
国王が帰還を労うよりも早く王子の体を支配した魔王が国王に向かって何かを放ち攻撃を加えた。突然のことで、国王だけでなく、近衛兵も反応することは無かった。
魔王が放った物は、ここに来るまでに手に入れた剣だった。そしてそれは国王ののど元に刺さり、何をされたのかもわからぬまま国王は息絶え、体を床に投げ出した。
「王子!?」
「ははは! 反応が鈍いぞ? もう少し違和感に気付けないのか?」
「がっ!?」
状況が理解できず戸惑っている間にも王の間の中に居た物は1人残らず魔王の手によって倒された。
そして、それを皮切りに魔王は王都中に瘴気を覆わせた。
「む? 聖女はこの近くには居ないのか。ああ、そう言えば呼び戻すと言っていたな。まあ、そのうち帰って来るだろう。それまでは気晴らしにこの国でも支配してみるか」
かくして王都は数日も経たないうちに魔王の手に落ちることになったのだ。
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